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建築の将来語る 国内外で活躍する建築家・田根剛さんら

カルチャー | 神奈川新聞 | 2016年10月6日(木) 14:41

国内外で活躍する建築家の(写真左から)伊東豊雄さん、田根剛さん
国内外で活躍する建築家の(写真左から)伊東豊雄さん、田根剛さん

 国際シンポジウム「朝日地球会議」が4日、都内のホテルで行われた。「多様な『環境』と建築」と題したパネル討論には、1日にエストニア第2の都市タルトゥに開業した「エストニア国立博物館」の建築に携わった田根剛さん(37)と、台湾の台中市に9月30日にオープンしたオペラ劇場「台中国家歌劇院」の建築を手がけた伊東豊雄さん(75)が登壇。初対面の2人は日本の建築の将来について語り、2020年東京五輪を見据え、建設ラッシュが続く東京の街に「危機を感じる」と口をそろえた。

 田根さんは「日本は『建設業』が先行していて、『建築』が大事にされていない。思想を持って造られた物を耐震や改修のために壊してしまう。これはまずい。(建築ラッシュの東京は)パニックに陥ったかのよう」と危惧。伊東さんは新国立競技場の建設案に触れ、「顔が見えない官僚システムの中で決まってしまう」と指摘し、「小池(百合子東京都知事)さんが、個人の顔でどこまで暴いてくれるのか」と語気を強めた。


田根さんの建築観
 パリに拠点を置く田根さんは、近代建築によって過去に造られたものが壊されていく街を見て、新たな物を造るのではなく、「場所が持っていた過去の記憶を掘り下げる」をテーマとするデザインを考案。

 05年末に行われた「エストニア国立博物館」のコンペティションでは、建設予定地に巨大な滑走路が森を切り裂くように横たわっているのを目にし、国の歴史を調べた。すると、1991年まで国を支配していたソ連が第2次世界大戦後に軍用基地として造ったものだと判明した。

 「過去の遺産を負のものではなく、前向きな物として捉えるため、どうすればいいかと考えたとき、滑走路から続いていく建物のイメージが頭に浮かんだ。未来のエストニアに向けて、新しい記憶を更新していく場になれば」。そう願いを込めて、デザインのガラス部分に希望を示すエストニアの伝統的な印である、八つの星を取り入れた。

 2013年3月から約3年をかけて、今夏に完成した博物館は長い未来に向かい、さまざまな創作的な活動ができるように小劇場や公共スペースも併設。建物の中に一つの都市があるようなイメージで造られた。

 館内には最初に作られた国旗のほか、インターネット電話サービスの「スカイプ」の開発が同国の首都タリンで行われたことにちなみ、開発者が使用していた椅子も展示。ほか、湖に浮かぶレストランなど遊び心が満載となっている。

 田根さんは、1日のオープニングセレモニーで、敷地のあちこちで音楽が流れ、にぎやかだったと振り返り、「民族衣装を着た人もいて民族の魂を受け継ぐような歌を聴くこともできた。ミュージアムは権威的なものではなく、建築はもっと人々の生活の中の延長上にあるものという体験をした」と話した。


伊藤さんの建築観
 台中に9月末に開業した「台中国立歌劇院」は連続したチューブのような建物が目を引く。伊東さんは、11年前にベルギーで行われたコンサートホールの企画立案時に、同様のアイデアを提案したが、受け入れられなかった。10年前に行われた同歌劇院に同じ企画で再チャレンジし、採用されたという。

 「ポルトガルに出向いた際、(民族歌謡の)ファドを聴きに行こうと誘われて。コンサートホールのようなところに行くのかなと思っていたら、階段の踊り場でコンサートが始まった。(歌声を聴こうと)近くのカフェからテーブルが出てきたり、通りすがりの人が階段に腰を下ろしたりして聞いていた。ノイズ(雑音)も入ってくるけれど、楽しいじゃないか。こういうコンサートホールを造りたいと思った」とアイデアが生まれた過程を振り返った。

 建物は2千席の大ホール、800席の中ホール、200席の地下ホールと三つのホールを有する。青をイメージカラーにした中ホールは、ステージと客席の境を取っ払うなど実験的な会場で、オープニングレセプションでも使用された。

 式典では、アムステルダムを活動拠点とするピアニストの向井山朋子さんが透ける布で造られたチューブの中に入って演奏するパフォーマンスなどが聴衆を驚かせた。

 伊東さんは「劇場の中だけではなく、建物全体がコンサートホールになっています。歌う場所がエントランスならば、階段が客席になる」と説明。周囲に高層ビルがあるため、「屋上で演奏をするならば、周りのビルからのぞくこともできる。ストリートコンサートのような楽しさを再現したい」と話していた。

 伊東さんの建造物への思いを知った田根さんは「街と建築がおおらかな自然の中で一体化している。体験したい建築。広場で子どもが水浴びをしていたり、建築物は人が集まることで意味を持つと再確認した」と感心していた。

 
 

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