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心療内科医でジャズ歌手
「鎖」から解き放たれるエッセー 海原純子さんが新著

カルチャー | 神奈川新聞 | 2019年11月21日(木) 19:22

「悩みを抱える個人よりも、社会構造そのものに問題があることに気が付く。そのことを発信するためにエッセーを書いています」と海原純子さん
「悩みを抱える個人よりも、社会構造そのものに問題があることに気が付く。そのことを発信するためにエッセーを書いています」と海原純子さん

 横浜市出身の心療内科医でジャズ歌手としても活動する海原(うみはら)純子さんが、新著「気持ちがすっと軽くなる こころの深呼吸」(婦人之友社、1540円)を出版した。心身の疲れを上手に手放すヒントや生きづらさに対する心の持ちようを、持ち前の柔らかな筆致でつづっている。

 月刊誌「婦人之友」2011年1月号~19年9月号に連載された100を超えるエッセーから50編を再編集し、書き下ろし3本を加えた一冊。心療内科医として患者と向き合った経験や知見を基に、自己を肯定する大切さを説く。

 「一人がぶつかる人生の壁って実は一人だけのものじゃない。多くの人に共通する普遍的な悩みについて書いています」と海原さん。人と比較して自信を失ったり、「女性(男性)はこうあるべき」といった世間のレッテルに翻弄(ほんろう)されたり。「社会には脈々と続く心理的な『鎖』がある。ぐちゃぐちゃに絡まった電気コードをほぐすように、心を縛る鎖から楽になってほしいんです」

 その一助を担おうと同誌にエッセーを寄せ続けている。「落ちこむ心のクセから自由になるのは、成熟し自由な心をもつこと」「自分と対話する場をいつももっていたい」「生きるのに才能なんていらない」。計8章からなる本書は、どのページを開いてもはっとさせられる言葉に出合える。



 女性特有の苦悩も立ち上る。自活を目指して医師の道に進み、大学病院での研修を終えた海原さんは、1984年に都内で女性のためのクリニックを開設。2年後に男女雇用機会均等法が施行されると、仕事と家庭の両立に疲弊する女性の受診が急増した。

 「女性が働くことが当然視されない当時、責任ある立場と見なされなかったり、仕事と家事で睡眠不足になったり、子どもがいる人は『母親失格』と罪悪感を覚えたり」。人一倍自立心が強く希望に燃えていた彼女たちが抱えた苦悩をこう振り返る。

 現代でもやはり、自分らしい生き方を抑え込み、不調を来す女性が少なくないという。「大切なのは世間がどう思うかではなく、『私は』どう生きたいかと主体的になること」。自分を持つことこそが心の健康につながると強調する。

 「働いてばかりで夫がかわいそう」といった言葉を浴び、在るべき女性像や妻像を押し付けられた経験が自身にもある。あるいは、医師と並行して音楽の道を極める姿に疑問を投げ掛けられたこともある。

 こうした抑圧に対し、文体と同様の穏やかな語り口で海原さんは言う。「いろいろな自分がいていい。自分という人間をジャンル分けすることなどつまらないですよね」

 生きづらさを覚える人たちに寄り添うことは「手助けをしているようで、自分も確実に何かを与えてもらっている」と話す。「何かと闘っている人はすごい。むしろ自分がたくさんのことを学ばせてもらっています」

 実体験から紡がれた海原さんの言葉の数々は、鎖に縛られた人々の心をゆっくりと解きほぐしてくれるはずだ。

 
 

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