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現代美術家やなぎみわ 10年ぶりの個展

カルチャー | 神奈川新聞 | 2019年11月18日(月) 14:16

無人公演中の「神話機械」=県民ホールギャラリー
無人公演中の「神話機械」=県民ホールギャラリー

 虚構と現実が入り交じった幻想的な写真や、演劇作品を意欲的に発表している現代美術家やなぎみわ(1967年生まれ)。約10年ぶりの個展となる「やなぎみわ展 神話機械」が、県民ホールギャラリー(横浜市中区)で開催中だ。初期から新作まで約50点の作品を通して見えてきたのは、美術と演劇の間を行き来しながら、物語や神話をモチーフにしたダイナミックな作品づくりだ。 

 新作「女神と男神が桃の木の下で別れる」は、福島県の桃園で撮影した写真のシリーズ。たわわに実った桃が闇の中に浮かび上がる。夜、桃の古木の下で横になり、懐中電灯で照らしながら大型のフィルムカメラ8×10(エイトバイテン)で撮影したという。

 桃はアジア圏では多産の象徴であり、邪気を払う植物でもある。古事記では、女神イザナミノミコトと男神イザナギノミコトの劇的な場面で登場する。

 イザナミは、火の神を産んだ際のやけどがもとで亡くなった。美しい妻をよみの国まで追いかけてきたイザナギは、腐乱してうじが湧いた妻の姿を禁を破って見てしまう。怒ったイザナミは逃げるイザナギを追いかける。だが、イザナギはあの世とこの世の境に生えていた桃の実を投げつけ、夫婦は生と死の世界に別れることになる。

 展示室全体が写真の背景と一体化したように暗く、イザナギが逃げてきたよみの国を思わせる。


「女神と男神が桃の木の下で別れる」の展示=県民ホールギャラリー
「女神と男神が桃の木の下で別れる」の展示=県民ホールギャラリー

 同じ写真作品で2004年に発表された「フェアリー・テール」では昔話を明確なテーマとし、立場が入れ替わった少女と老婦人が描かれた。一見すると静物写真のような「女神と-」にも古事記という物語が潜んでおり、やなぎの関心の共通性がうかがわれる。

 桃を投げつけるという印象的な行為は、他の作品でも形を変えて現れる。

 機械仕掛けによる無人の演劇空間を表現した「神話機械」では、後頭部が桃の形をしたどくろが、投てきマシン「ムネーメー」によって壁に投げつけられる。

 メインマシンの「タレイア」は、ヘラクレスやオイディプス、マクベスといった悲劇に登場する人物たちのせりふを発しながら、手足がのたうつ「メルポメネー」やガラス瓶を振動させて喝采を送る「テルプシコラー」の間を動き回って照明を当てる。

 本来、演じた瞬間から消えてしまう劇を、ギリシャ神話で文芸をつかさどる女神たちの名が付けられた機械が、永遠に演じ続けるとの意図がある。

 他に、やなぎが最初に注目された写真シリーズ「エレベーター・ガール」や、公募したモデルが考える50年後の理想の自分を特殊メークで表現して撮影した「マイ・グランドマザーズ」といった代表的な作品も並ぶ。

 同ギャラリーの森谷佳永学芸員は「初めてやなぎの作品を知る若い方には全体像が見られる機会。ずっと追っている方には、やなぎの活動が次にどこへ向かうのかを見ていただけるのではないか」と話した。

◆12月1日まで。木曜休館。「神話機械」の上演は平日午前11時と午後3時、土日・祝日は午前11時、午後2時、4時で約15分。一般千円、学生と65歳以上700円。問い合わせは同ギャラリー☎045(662)5901。

◆11月29、30日は午後7時半から、「神話機械」の展示室でライブパフォーマンス『MM』を行う。上演時間は約1時間。各回100人で要予約。ベンチ席2千円、立ち見席1500円。申し込みはチケットかながわ☎(0570)015415。

 
 

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