
【2019年10月20日紙面掲載】
※シンガー・ソングライター
先日、急きょスケジュールに空きができたので母と二人で旅行に行ってきた。
2泊3日の旅だったが細かいプランはあえて立てずに、温泉に入る以外はただ川沿いを歩いたり、自転車を借りてサイクリングしたり、地元の電車に揺られたりして過ごした。
もうすぐ還暦を迎える母は私なんかよりよっぽど好奇心旺盛で、些細(ささい)な変化やちょっとしたことにもよく気がつく。今回の旅行中も、私だったら何もなさそうだからと通り過ぎてしまうような場所でも、立ち止まっては様々(さまざま)なことを発見して目を輝かせていた。
今年はまだ暖かいから夏の花が咲いているとか、同じ山でも神奈川の方とは違う木がたくさん生えているとか、普段乗る電車より窓が大きくて気持ちがいいとか。言われてみればたしかにそうなのだが、私一人だったら絶対に見過ごしてしまうようなことである。そういう些細なことにいちいちはしゃいでいる母の姿は、まるで少女のようだった。
宿で出た食事ひとつとってもそうだった。母は和栗やむかご、さつまいもやかぼちゃといった旬の食材がたくさん使われた前菜を見て、秋だ秋だとえらく喜んでいた。
私はというと同じ料理を前にしながら、「便秘気味なので根菜はありがたい、明日の朝はスッキリできそうだぞ」などと自分の腹のことばかり考えていた。まったく恥ずかしい話である。
母と温泉に入ったのは久しぶりだったのだが、思っていた以上に肌がキメ細やかで驚いた。なんでそんなに肌が奇麗なのかと聞くと、「何もしてないけど、楽しいことないかなと思いながら毎日過ごしてるからじゃないかしら」と言っていた。今回の旅行のあれこれを思い出してみたら、たしかにそうかもなと思った。
シンプル過ぎる母の美容法、今後私も取り入れていこうと思う。お金もかからなそうだし。