
フィンランドを代表する振付家テロ・サーリネンが振り付けた韓国国立舞踊団のダンス作品「VORTEX(渦動)」が25~27日、KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で上演される。「アジアの身体」に深い関心を寄せるサーリネンと、伝統的な韓国舞踊を手掛ける同舞踊団の「貴重な出会い」を生で体験してほしいと語るKAAT館長の眞野純に、本作の魅力を聞いた。
クラシックバレエのダンサーとしてキャリアをスタートさせたサーリネンは、日本を含むアジアの舞踊にも多大な影響を受けている。1990年代に来日して「大野一雄舞踏研究所」(同市保土ケ谷区)の門をたたき、1年にわたり舞踏を学んだ。
「大野さんの下でインスピレーションを受けながら独自の舞踊表現にたどり着き、鬼才の振付家テロ・サーリネンが生まれた」と眞野は話す。
欧州に戻った後は自身のカンパニーを設立し、コンテンポラリーダンスのダンサーとしても活躍した。
「他の地域の身体性と出合いたい」との欲求とアジアの踊りへの興味が、同舞踊団とのコラボレーションを実現させたという。

62年に創立した同舞踊団は伝統的な韓国のダンスを中心に創作。サーリネンに蓄積された独自の舞踊スタイルと韓国の伝統の融合が生み出す2014年初演の「VORTEX」は、「渦動」を意味するタイトルの通り、ソロからデュエット、群舞へと変化する多彩な踊りの渦が観客を巻き込んでいく。「コンテンポラリーのサーリネンが与える刺激に韓国の舞踊団が応えて一種の強烈な作品が出来上がった」と眞野。両者が起こす化学反応を目に焼き付けてほしいと話す。
KAATでは昨年度から「アジアの身体」に着目したダンスシリーズを展開しており、その一環で同舞踊団を招聘(しょうへい)した。くしくも企画後に日韓関係の悪化が取り沙汰されたが、互いの信頼から中止の話が持ち上がることは一度もなかったという。

韓国のアーティストと長年親交を深めてきた眞野が力を込める。「政治や経済に翻弄(ほんろう)されたくない。芸術家同士、30、40年の時を重ねて厚みのある関係をつくってきた。これを壊したくない」
芸術に大きな力はないと言うが、隣国と継続的に作品を創作したり、共に舞台空間を創り出したりすることで「互いの文化交流の大きな一歩になる」と語る。
この「一歩」を象徴する本作。「見ると震える。捉え難い感動がある」と評する眞野は、欧州とアジアの才能が生み出す唯一無二の空間にじかに触れてほしいと呼び掛けている。
25日は貸切公演。26・27日はKAATホールで午後3時開演。S席3500円、A席2千円ほか。問い合わせはチケットかながわ☎(0570)015415。