振付家、ダンサーの森下真樹(43)主宰のダンスカンパニー「森下スタンド」が10月3~6日、ベートーベンの「第九」に振りを付けた新作を県立青少年センタースタジオHIKARI(横浜市西区)で披露する。誰もが一度は耳にしたことのある古典の音と体を対峙(たいじ)させ、「聴く第九から見る第九」への転換を目指した舞台空間を創造する。
「どんなにどん底でも喜びへ向かう」をテーマに、約75分に及ぶ全4楽章を踊る。構成、演出、振り付けを担う森下は「本当は200人で踊りたいくらいスケールの大きい音楽」と第九を評する。
「音楽にはかなわないと思って踊っています」と語る森下にとって、「音」は常に意識する特別な存在。「どんな振りを作っても、最終的に音に支配されるもどかしさ」があると話す。目指すのは、その動きを見た瞬間に頭の中で音楽が流れ出てくるような、「音を発せられる体」になることだという。
名曲の音に「しがみつくように」して踊るのは、森下を含めたカンパニーの11人。
森下スタンドはオーディションで選ばれた若手ダンサーを中心に2016年から活動する平均年齢25歳のグループ。ソロで活躍してきた森下が、「自分よりも身体能力の高いダンサーに群舞の振り付けをしたい」と考えて発足した。
身体性や体形、踊りに対する感覚がメンバーによって違う「ばらばらな個性の集まり」。バレエ、ストリート、コンテンポラリーと、学んできたダンスもさまざまだ。
「実は群舞に向いていない」と笑う森下だが、これこそが第九を演じる強みになる。「演奏する一人一人の解釈が集まり、ばらばらになろうとするエネルギーと一つにまとまろうとするエネルギーが拮抗(きっこう)する力こそが第九なんです」。一つの振りに対して異なる解釈を示すことが多々あるという森下スタンドと重なるものがある。
著名で力強い印象を残す第九の音にのみ込まれないよう、メンバーも心して臨む。だが、出演者の1人、宮崎あかね(29)は「気負いすぎず、フラットに音楽と付き合いたい。もっと冒険して、飛び越えていけるような体の差し出し方や踊り方を追求します」と意気込んだ。
第1楽章は地球上を旅しているような感覚を与えてくれ、第4楽章は壮大で重厚感があると第九への思いを巡らす森下。「ベートーベンが第九でそうしてくれるように、さまざまな景色が浮かぶ空間を体で創りたい」
その先に「音を発する体」を舞台上に示すことが、森下スタンドの究極の目標だ。
◆ベートーヴェン交響曲第9番全楽章を踊る 3・4日午後8時、5日同2時・6時、6日同1時・5時開演の全6公演。前売り3800円、当日4千円、学生2千円、高校生以下1500円。申し込みはチケットかながわ☎(0570)015415。