
男性デュオ「スキマスイッチ」が13日、新シングル「ミスターカイト/リチェルカ」を発売する。前作「LINE」(2015年11月)から約2年ぶりとなる新作に込めた思い、音楽制作にかける思いをボーカル・ギターの大橋卓弥(39)、鍵盤の常田真太郎(39)に聞いた。
「最近企画アルバムが続いているし、あいつら(スキマスイッチは)曲を書いていないんじゃないか」。6月に東京であったライブのMCで、大橋が自虐的に言った。
新曲制作までの間、向き合っていたのは、“スキマスイッチを壊すこと”だった。
1999年に結成後、一度も外部の声を入れず、セルフプロデュースで曲を生み出してきた2人。デビュー5年目の2008年に、ソロ活動に専念した際は、デュオでの制作をストップしたが、その1年間以外は制作とツアーを繰り返してきた。「そのルーティンを一度止めてみよう」
2人は「自分たちが作ってきた音楽を、誰か違う人が触ったらどんな風になるんだろう。その化学反応を見たい」と新しい挑戦に目を向けた。同じようにセルフプロデュースで活動している小田和正(69)、KAN(54)、奥田民生(52)ら12組に声をかけ、「全力少年」など自分たちの曲の再構築を依頼した。
経験が視野を狭くしてはいないか。凝り固まった考えを壊してしまおう。
「(僕らを)好きにして下さい」。最初に取り組んだ「僕と傘と日曜日」は、オリジナルラブの田島貴男(51)がミディアムテンポの曲を、「アップテンポに変えよう」と提案。受け取ったデモ音源を聴いたとき、「こんなふうにアレンジできるのか」と驚いた。「こんな感動がこの後、何回もあるのかと思ったらワクワクした」。ボーカルに複雑なアレンジがあり、「自分の曲だけど、歌えるかな。自分のボーカルが通用するかな。いきなり難しかった」と大橋。しかし、“イバラの道”を進むことは、経験値を上げることにつながる。感じた手応えに胸が高鳴った。
アーティストたちの懐に飛び込んで続けた作業は、その空気作りなど、音楽に向かう姿勢を学ぶ貴重な機会になった。スケジュールの関係もあり、止まっては進みを繰り返し、ことし2月にアルバム「re:Action」が誕生。奥田がプロデュースした「全力少年」が幕開けを飾る。
ドラム、ギター、ベース、タンバリンに至るまで奥田が演奏をし、コーラスも務めた楽曲は、一音で奥田の色が広がっている。

「生まれたグルーブは、民生さんならではのものだった。でもその中に、自分たちのサウンドカラーを感じることができた」と大橋。
映画音楽を手がける澤野弘之(36)がアレンジした「Ah Yeah!!」は壮大な1曲に仕上がった。1曲をアレンジするのではなく、20以上の曲を素材として用い、歌詞やフレーズを複雑に絡めて、新曲「回奏パズル」を生み出したKANには、「何て発想力なんだ」と舌を巻いた。
中でも大先輩の小田との共演は想定外の連続で、大きな刺激になった。
小田出演の音楽番組「クリスマスの約束」で競演した際、小田と一緒に制作した「僕らなら」をモチーフに、楽曲を一新することになった。
10カ月をかけた歌詞制作で常田は、浮かんだ歌詞を、生徒が先生にするように小田に提出した。一音には一文字というこだわりを持つ小田。「いい表現だけど」と認めながらも、毎回細かい赤字(修正)が入った。
「その歌い方で本当に良いの?」。発声、歌い回しなど、全方向から矢が飛んできた。
問われる度に、「どうしていこうか」と自問自答した。限界ギリギリまで刃を研いでいく。小田の姿勢に触れることで、小田がこだわるものの中にある思いを学んだ。常田は「『こいつらに何か残したい』という気迫を全身で感じた」と振り返る。
「先輩たちのエネルギーを感じながら、(同じ場所に立っている)自分たちにもこの力があるだろうか」。制作に打ち込む2年の間、何度も頭の中に巡った。
やりとりを重ねて生まれた「君のとなり」は、自分たちの想像を超えた方向に帆を膨らませた。想定を超えた楽曲を完成させたことは大きな自信になった。
ぶつかった壁を乗り越え生まれた作品を手に、4月からはアルバムに参加したアーティスト1組を1公演ごとに招く、「対バンライブ」を展開した。
「通常のツアーは、同じことを深めていく。でも今回は、毎回違うアーティストを招く1回が17回続き、とても刺激的だった。(プロデュースしてくれた方々と)ライブをするなんて不可能と思っていたけれど、みなさん快く引き受けて下さった。一つ一つのライブが感謝の塊だった」と常田は胸を熱くする。
※9月14日配信する〈下〉に続きます。