来春開業する東京都港区のJR山手線の駅名が「高輪ゲートウェイ」に決まったことに対し、撤回と「高輪駅」の採用を求めている有識者5人が、駅名を語るイベントを都内で開いた。共有されたのは「駅名は公共財だ」との認識だ。
タイトルは「駅名向上委員会」。会場は100人超の熱気に包まれた。登壇者は▽能町みね子(エッセイスト・イラストレーター)▽飯間浩明(国語辞典編纂(へんさん)者)▽今尾恵介(日本地図学会「地図と地名」専門部会主査)▽小林政能(境界協会主宰)▽杉内由佳(立正大学非常勤講師)。
新駅名は昨年12月、JR東日本が発表。公募1位は8398件の高輪だったが36件、130位の名称が採用され、歴史性を無視しているなど反対の声が高まった。能町はすぐに撤回の署名活動をネット上で始め、約1カ月で4万7930人の賛同を集めた。
当時、能町は雑誌の連載に「『決まっちゃったらしょうがない』の無力モードが世間を支配している」中でも、この駅名ならば変えられるのでは-と書いた。「書いたからには私がやらねばと思って始めた」と署名活動を振り返った。
本紙に「地図と歩く神奈川」を連載中の今尾は「駅名には昔からの地名を採用するのが基本だ」とした一方、戦後は観光客誘致のため、各地に「高原」と付く駅名が現れたと指摘。さらに、新鮮さの表現のため仮名交じりが増えた近年の例として、つくばエクスプレスの▽流山セントラルパーク▽流山おおたかの森▽柏の葉キャンパス▽みらい平などの駅名を挙げ、苦笑を誘った。
その上で、今尾は「歴史的な地名を無視し、公共物の側面もある駅名を商業利用することは、どこまで許されるのか」と問題提起。飯間も「駅名は単なる記号ではない」と応じた。
能町は最後に、山手線のほぼ全駅を改称する私案を披露。目黒を権之助坂(ごんのすけざか)に、原宿を竹下に、新橋を烏森(からすもり)に、新宿さえも角筈(つのはず)にする大胆なものだ。秋葉原は「あきばがはら」という古来の読み方にする。実際に変更を求めるのでなく、歴史との関わりを再考する「思考実験」として示した。会場からも感嘆の声が上がった。
イベントは1日夜、東京都渋谷区のトークライブハウス「LOFT9 Shibuya」で開催された。