
5日から横浜ブルク13、川崎チネチッタほか全国で上映。
本来の自分として堂々と生きられない息苦しさは計り知れないものがある。アイデンティティーに揺れる一人の少女の苦悩を真っすぐに表現した本作は、同じように自身の在り方に思い迷う人々の心に深く刻まれる傑作だ。
プロのバレリーナを目指す15歳のララ(ビクトール・ポルスター)=写真中央=は、難関のバレエ学校で厳しいレッスンを受けている。しかし、夢の実現は一筋縄ではいかない。それは、彼女が男性の体で生まれたからだった。
ライバルから向けられるあざけりの視線、思春期の変化で思うように動かない体。あまたの壁と対峙(たいじ)しながら、血のにじむような努力を重ねるララ。上半身をあらわに鏡の前に立っては、ホルモン療法の成果が出ないその姿に不安と焦りを覚えていく。
性への葛藤から次第に追い詰められていく難解なララ役に臨んだのは、現役ダンサーのポルスター。男性の踊り手ながら、女性として確かな自信が持てずに自分を抑え込む彼女の揺れ惑う心の機微を、一切の違和感なく演じた。トーシューズでつまずきながら踊り続けるシーンは痛ましく、美しい。演技力とダンス技術を兼ね備えた才能が迫り来るほどの存在感を放った。
「君は女の子だよ。女の子さ」。ララを支えてやまない父の言葉が切なく響く。苦悩の先に、父と娘の揺るぎない愛情が一筋の希望として光った。
監督/ルーカス・ドン
製作/ベルギー、1時間45分