【2019年6月23日紙面掲載】
「強くなるにはどんな勉強をすればいいでしょうか?」。これまで幾度となく聞かれた質問だ。
一般的なのは実戦、詰め将棋、棋譜並べだろう。最近はこれに人工知能(AI)の活用が加わる。ただAIは使い方を間違うと逆効果にもなりかねない。頼り過ぎず、あくまでも自分の頭で考えることが大切である。
初心者の子どもであれば、とにかくたくさん指すことが一番だと思う。棋力や年齢が上がるほど難しい問題で、その人の棋風や性格を考えてアドバイスしてきた。
最近は「3局指して1回ぐらい勝てる人とたくさん指すこと」を勧めている。負けてばかりではつまらないし、心も折れる。一方で楽に勝てる相手だと、得るものは少ないということだ。
単純で地味な答えなので、不満そうな反応をされることも多い。こちらもそれは想定内。その時は「実はこれ、豊島さんの言葉なんです」と必殺のひと言を付け加える。
豊島将之名人(29)は昨年、念願の初タイトル棋聖を獲得すると、続けざまに王位も奪取、そして先月には名人位も獲得した三冠王である。
1年半ほど前、まだ無冠だった豊島名人が女性ファンに上達法を聞かれ、答えていたのだ。たまたま隣にいた私は聞き耳を立てて、その後は拝借させてもらっている。
棋界のトップを走る三冠王の名前は効果てきめんで、誰もが納得してくれた。私としては、うれしいような悲しいような複雑な心境である。