木もれ日 関取花
小説ごっこ

カルチャー | 神奈川新聞 | 2019年6月6日(木) 12:52

関取花
関取花

【2019年6月2日紙面掲載】
※シンガー・ソングライター

 “夢の中を歩くようなおぼつかない足取りで窓辺へ向かうと、灰色の空が泣いていた。抱きしめてあげたいと思った私は、思わず両腕を伸ばした。”

 ……とまあ入りはこんな感じだろうか。いやあクサい、クサすぎる。でもやり過ぎくらいがちょうどいい。

 私は雨が嫌いだ。洗濯物は干せないし、髪はうねるし、靴は汚れる。何をするにもスムーズに行かないことが多く、ついついイライラしてしまう。

 最近、そんな日でも楽しむ方法はないかと考えた末に編み出したのが、この「小説ごっこ」である。雨の日は無駄にセンチメンタルな気分になるので、もってこいなのだ。

 たいした意味のない行動にも、さも意味ありげな文脈を頭の中で付け足して行く。そうして設定を作り上げて、浮かび上がって来た主人公になりきって一日を過ごすのだ。一度入り込めば、あとはこっちのものである。

 “その時私は、もう立ってはいられないと思った。どこか狭い場所でうずくまっていないと、ひとりぼっちだという事実に押しつぶされて、この身体が張り裂けてしまいそうだった。”

 こんなの突然トイレに行きたくなったというだけの話である。張り裂けそうなのはパンパンに張った自分の下っ腹の方だろう。

 “この部屋はまだあの日の香りで溢(あふ)れていて、時々鼻の奥がツンとする。こんな思い出、すぐに捨ててしまおうと思っていたはずなのに。”

 これは燃えるゴミを出し忘れただけの話。ツンとしたのは生ゴミの臭いだ。ちなみに冒頭のやつは、朝起きて伸びをしたというだけ。

 馬鹿(ばか)だなあと思いながらも、いつも気付けば夢中になっている。無意識に憂いをおびた表情を浮かべている自分がいたりして、思わず噴き出しそうになることもある。すると、イライラするのも馬鹿らしくなってくるのだ。

 雨が嫌いだ、梅雨は毎年憂鬱(ゆううつ)だというそこのあなた。「小説ごっこ」、ぜひ一度お試しあれ。

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