
2人の男が正体不明の「ゴドー」をひたすら待つ戯曲「ゴドーを待ちながら」。サミュエル・ベケット(1906~89年)による不条理演劇の代表作が今月、KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で上演される。「あなたにとっての『ゴドー』とは」。演出の多田淳之介(42)=川崎市宮前区出身=が、不朽の名作を通じて個人のありようを問う。
1本の木がそびえ立つ田舎道で、男2人が会ったことのない人物「ゴドー」を待ち続けている。そこへ別の2人の男が登場、4人でのやりとりが繰り広げられた後、使者の少年が現れて「今日は来ないがあしたは来る」という「ゴドー」の伝言を告げる。
53年のパリでの初演以降、現代演劇の礎として世界各地で上演されている本作。神、夢、希望、死…。「ゴドー」を象徴するものは、見る者によってさまざまな解釈がなされてきた。
「時代や場所によって『ゴドー』は変わり続けていると思うんです。正解は一人一人の中にしかない」と語る多田は、この戯曲に国や時代を超えた深い普遍性を見いだし、本公演のテーマの一つに「日本」を据えた。
日本で暮らす人にとって「ゴドーを待つ」とは何を意味するのか。日本語のせりふで上演するからこそ、「まずは『日本人とは何か』を考えたい」。
多田はメインキャストの年齢が60代の「昭和・平成」、30代の「令和」の2バージョンを交互に上演するという斬新な演出を試みる。「今まで何を待ってきたのか、これから何を待つのか」。元号が変わったこのタイミングで、公演が「過去と未来を考えるきっかけになれば」と話す。
「経済は右肩上がり、夢にあふれていた昭和の一時期に比べて、先行きが不透明な現代は信じられるものがない」とみる多田は「『ゴドー』という来るかどうかも分からない人物を待つ2人の男が、今の自分たちの姿と重なる。だからこそベケット作品が日本の人たちに意味のあるものだと感じている」と上演の意義をかみしめる。
「過去の国も違う人たちが、同じような思いを抱いていたと知ることができるのが海外戯曲を演じる面白さ」と話す多田。自分も心のどこかで「ゴドー」のような「何か」を待ち続けているのかもしれないという想像を呼び覚ます本作は「人間とは何か、という世の芸術が問い続けている命題につながると信じています」
◆「昭和-」の出演者は大高洋夫、小宮孝泰ら、「令和」は茂山千之丞、渡部豪太ら。翻訳は岡室美奈子。KAAT大スタジオで12~23日(14、19日休演)。一般5千円。2バージョンセット券9千円ほか。問い合わせはチケットかながわ☎(0570)015415。