ヒロインが美人であることは作品の魅力の一つだが、それが全てではない。例えば「転校生」の小林聡美、「百円の恋」の安藤サクラは美形ではないが、役柄の個性と演技力で、とてもキュートだった。「オリーブの樹(き)は呼んでいる」のアルマ(アンナ・カスティーリョ)も、そんなヒロインだ。
スペイン・バレンシア州に住むアルマは気が強くて、気難しい20歳。大好きなおじいさんだけに心を開いている。
おじいさんが大切にしていたオリーブの樹を父が売ってしまったことから、おじいさんは口を利かなくなった。今では食事も取らない。
アルマは決心する。「ドイツに売られた樹を取り戻す!」。叔父(ハビエル・グティエレス)と同僚のラファ(ペップ・アンブロス)を丸め込み、計画も資金もないまま、3人は大型トラックでドイツに向かう。
脚本は「天使の分け前」など名匠ケン・ローチ監督作品を手掛けてきたポール・ラバーティ、監督はその妻イシアル・ボジャイン。
2千年もの間、大地に根を張っていたオリーブの樹。それが、ある会社のイメージ戦略に利用されていた。アルマはグローバル企業相手に、無謀な戦いを挑む。このあたりの社会性がラバーティ脚本。
対立の構図はやや図式的で、ヒロインは強引だが、“おじいちゃん、命”の純粋さと行動力が今どき珍しく、すがすがしい。さらにアルマに同行する叔父の三枚目ぶり、アルマに思いを寄せるラファのぼくとつさがロードムービーを豊かにした。
次代への“接ぎ木”、父への赦(ゆる)しなどラストもそつなく、若い世代に対する作り手の信頼が心地よい。