新型コロナウイルスの影響で休館中の民間アートセンター「若葉町ウォーフ」(横浜市中区)が、活動を制限しながらも独自の表現を模索している。「コロナから受けた打撃をどれだけ創造性に転化できるか」。それが芸術の面白さだと、ウォーフを運営する演出家の佐藤信(まこと)(76)は言う。半世紀にわたり演劇界をけん引してきた佐藤が考える、文化芸術の在り方とは。
ウォーフは2017年6月、国内外の表現者が作品を創造する拠点として開館。「自由劇場」や「劇団黒テント」といった団体での活動をはじめ、1960年代から舞台芸術の世界に身を置く佐藤が「演劇の原点を次世代に引き継ぎたい」との思いで立ち上げた。
稽古ができるスタジオと宿泊スペース、44席の小劇場が一体となっている。演劇や舞踊、音楽など多彩な芸術作品を発表。失敗を繰り返しながら芝居をつくった20代を振り返りつつ「もっと自由でいい。失敗してもいい」と佐藤が語る通り、自由で個性が光る民間施設として歩んできた。
目指すのは、アジアの舞台表現者との継続した共同制作。今年は企画が本格化する年だったが、新型コロナで6月に中国5都市で予定していた演劇ツアーは中止となった。来年2月までの交流企画も見通しが立たない上、施設は宿泊スペースなどの貸し出しを中断。4月から6月末まで休館状態だ。
それでも活動の息を止めてはならないと始めたのが、施設を町の「空き地」として開放すること。地元アーティストが壁に“落書き”をしたり、映画館など近隣施設との交流の場を定期的に設けたりと、地域のつながりが生まれている。
「何よりも、この体験を記憶に残したいとの思いがあった」と佐藤。コロナ禍以前は真っ白だった小劇場の壁が鮮やかに彩られているさまは、この状況下でも表現を絶やさなかった一つの証しとして残る。
劇場が「3密」の対象とされ、表現者は活動の場を失うほどの苦境に直面する。一方、佐藤は「どのような状況にあっても芸術は死なない」と迷いがない。改めて、演劇をはじめとした文化芸術が持つ意味に思いを巡らせる。
「疲弊した心にエネルギーを与えるのが芸能。世界中の面白い演劇は常に困難から生まれている。人々に余裕がない時こそ、何を表現すべきか考えるのがアーティストの務めです」
活動の制限を余儀なくされる今、過去の舞台映像や上演テキストのオンラインでの発信にも積極的に取り組む。無収入状態が続くなど先行きは不透明だが、創作意欲は尽きない。
「文化芸術は新たな形として進んでいく。困難をどれだけ創造性に昇華できるか。それを考えるのがこの仕事の醍醐味(だいごみ)でもあり、表現者として自覚しなければならないことです」