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映画プロデューサーに聞くキアロスタミ上映特集の魅力

芸能 | 神奈川新聞 | 2021年10月8日(金) 13:30

約30年横浜市青葉区で暮らすショーレ。キアロスタミ監督の遺作『ライク・サムワン・イン・ラブ』は横浜市内でも撮影されたが「路上での撮影は規制が多く、いら立つ監督をなだめるのに苦労しました」と笑う。9月に自叙伝「映画の旅びと」(みすず書房、3960円)を発表した

 2016年に76歳でこの世を去ったイランの映画監督、アッバス・キアロスタミの代表作をデジタル修復し上映する企画「そしてキアロスタミはつづく」が16日から東京都内などで始まる。同氏が来日した際の通訳・アシスタントを長年務めてきた映画プロデューサー、ショーレ・ゴルパリアン(横浜市青葉区在住)に、キアロスタミ作品の魅力を聞いた。

 今回公開されるのは「トラベラー」(1974年)「友だちのうちはどこ?」(87年)「ホームワーク」(89年)「そして人生はつづく」(92年)「オリーブの林をぬけて」(94年)「桜桃の味」(97年)「風が吹くまま」(99年)の7作。いずれもイランを舞台に、演技経験のない人々を俳優として起用した作品だ。

 出演者に脚本を渡さず、撮影の直前でせりふを伝えていたキアロスタミ監督。登場人物の表情は限りなく自然体だが、その裏側には緻密に計算された演出があった。先生に怒られた少年が泣く表情を撮影するため、スタッフが激高する芝居をして少年を不安な気持ちに追い込んだというエピソードも残っている。

 クルド人の村で撮影された「風が吹くまま」の撮影に立ち会ったショーレは「出演者たちのせりふは、まるで本物の彼らの言葉のようだった。『生きている人間を撮る』ための監督の手法は魔法のようでした」と振り返る。

 カメラを定点に据え、ひとつの長いシーンをつないで物語を紡ぐスタイルは小津安二郎監督との類似性も指摘される。「彼自身も、人間の感情の機微を描いた小津監督の映画は自分の作品に近いと言っていた。独特のカメラワークには、彼の哲学に基づく明確な理由がありました」

 自殺幇助(ほうじょ)者を探す中年男性の姿を描いた名作「桜桃の味」など、明確な結末が示されないことも多いキアロスタミ作品。その物語世界は観客の中で生き続ける。「全て説明しないのは、観客を尊敬しているから。孤独な時間が増えたコロナ禍の今こそ、心が温かくなる彼の作品をじっくり味わってほしいです」

 約40年前に来日したショーレ。イラン大使館秘書などを経て、現在はイラン映画の紹介や字幕翻訳、日本とイランの合作映画のプロデュースを手掛けている。

 実は78年のイラン革命後、検閲が厳しくなったイランでは、性的に過激なシーンのない日本映画が毎日のようにテレビで放映されていたという。「イランでは黒澤明監督は映画の王様。キアロスタミ監督が初めて黒澤監督に会った時、黒澤監督が通訳の私ばかり見ているのでキアロスタミ監督に嫉妬されてしまったこともありました」と笑う。

 約20年間、日本での仕事を共にした監督は「人生の先生」だ。「子どもに惜しみない愛情を注ぐことなど、多くを教わった。芸術家として気難しい顔も持っていたけれど、優しくてユーモアのある、すてきな人でした」

 『そしてキアロスタミはつづく』はユーロスペース(東京)で16日から、横浜シネマ・ジャック&ベティで11月6日から上映。

 
 

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