8日からTOHOシネマズ川崎などで上映。
太平洋戦争の終結を知らないままフィリピン・ルバング島の密林で暮らし続け、1974年に日本に帰還した元陸軍少尉小野田寛郎(ひろお)。約30年に及ぶ過酷な潜伏生活を、史実を基に描く。
戦後の平和な時代に、戦争の影を不意に国民に突き付けた小野田。多くの関心を引いたのは、一体どんな暮らしを送っていたのか、という点だろう。
意外にも、途中までは3人の仲間がいた。そのうちの1人が過酷な状況に耐えきれず50年に投降。これを機に存在が明らかになり、小野田の父親が島にやってきて、出て来るよう呼び掛けた。だが、小野田はわなだと信じ、父の言葉を暗号だと主張する。
実は小野田には、必ず生き抜いて秘密戦に勝利しろ、という秘密の任務があった。陸軍中野学校二俣分校の将校(イッセー尾形)は「国民は(おまえたちを)卑劣と呼ぶだろう。必ず迎えに行く。生き残るんだ」と小野田らに言い聞かせ、戦地へ送り込んだ。
雑誌やラジオを手に入れて日本の現況を知っても、将校の言葉を信じて待ち続ける小野田。滑稽にも見える姿に、何年たとうとも上官の教えが染みこんでしまう恐怖を覚えた。
若き日の小野田を遠藤雄弥=写真、その後を津田寛治が演じ、強靱(きょうじん)な精神の持ち主を、鋭い眼光とやせほそった体で見事に体現。潜伏生活が長引くにつれて人間性に目覚めていく姿が印象的だった。
監督・脚本/アルチュール・アラリ
製作/フランス、日本、ドイツ、ベルギー、イタリア。2時間54分