園子温(そのしおん)監督のハリウッドデビュー作となる「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」が、8日から横浜ブルク13などで上映される。主演にニコラス・ケイジを迎えて、日本の時代劇と西部劇が融合した世界を描いた異色作だ。作品への思いを園監督に聞いた。
「混沌(こんとん)とした世界が好きで、そういう映画を見ることが好きで」と語る園監督。「プリズナーズ─」には、銃を撃ちまくる銀行強盗や刀を振りかざす侍、遊郭にひしめく自由を奪われた女たち、荒れた土地の共同体で暮らす社会に隔絶された人々が登場し、まさにカオスな世界が広がる。
「サムライアクションとマカロニウエスタンの融合。そもそも日本の時代劇のセットにニコラス・ケイジが立っているだけで、異次元の世界ですよ」と笑う。
権力者ガバナーに支配されたサムライタウンから、ガバナーお気に入りの娘バーニス(ソフィア・ブテラ)が逃げ出した。ケイジが演じるヒーローはかつて銀行を襲った囚人で、バーニスを連れ戻すよう命令される。爆弾が仕込まれたスーツを着たヒーローが助かるためには、バーニスを連れてくるしかない。
「何となくアメリカに支配された日本をイメージした。幕末のような」という。時代も場所も特定できない奇妙な世界だ。
いかにもといった、かっこいい“ヒーロー”にはしたくない。その点はケイジとも意見が合ったという。「より人間くさい、一般的な人にしたかった。チャールズ・ブロンソンが演じる三番手のヒーローみたいな感じ」
バーニスを探すヒーローは、ゴーストランドにたどり着く。そこは放射能に汚染された地であり、動かない車を修理し続けたり、人間をマネキンに閉じ込めたり、と不可思議な人々が寄り集まって暮らしている。
人々は、塔を飾る大時計の針に綱を架け、引っ張って止めようとする。その針が示すのは広島に原爆が投下された時刻。「これ以上時が進んだら、また大惨事が起きるぞ、と。ニコラス・ケイジも日本で撮るからにはすごく有意義なことだと言って、広島の原爆資料館を訪ねて勉強していた」と明かす。
とはいえ「難しい映画ではない。画面に見えるものをいかに面白くするかに力を入れた。血のり以外、CGは使わず、見えるものが全て。何も考えずに見てほしい」と話す。
「小学校から高校まで、アメリカ映画しか見てこなかったので、ハリウッドはDNAにすり込まれていた。野球選手がメジャーを目指すようなもの」という念願のハリウッド進出。既に全米各地で公開済みだ。「集大成にしようとは思っていなかった。日本よりもとがりたいし、目立たなければ意味がない。これで地盤固めができた」
「この2年間、コロナ禍で部屋にこもってシナリオをめっちゃ書いて貯金ができた。転んでもただでは起きない」。そのシナリオで「次が勝負」と意気込んでいる。
園子温監督のハリウッドデビュー作 10月8日から上映
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撮影中の園子温監督(左)とニコラス・ケイジ(右) [写真番号:845404]
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混沌とした世界観が広がる「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」の一場面 [写真番号:845405]