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KAAT新芸術監督インタビュー
開かれた劇場へ(下)地域に劇場を溶け込ませる

芸能 | 神奈川新聞 | 2021年4月23日(金) 16:07

東京・下北沢で上演された舞台「王将」三部の一場面(撮影・益永葉)

 2度目の緊急事態宣言が発出された1月8日夜。KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)に、やや緊張した面持ちで入場客を見守る長塚圭史(45)の姿があった。この日は自身演出の舞台「セールスマンの死」(アーサー・ミラー作)の再演初日。「この状況下でも劇場の門戸を開いていられるのは大きなこと」と、かみ締めるように幕開けの時を迎えた。

 この春、コロナ禍の収束が見通せない中で芸術監督に就任。感染拡大は初年度のラインアップ選定にも影響した。「終演時間はどうするべきか、上演可能な作品かどうかなどの判断に迫られ、ぎりぎりまで決まらなかった。今も劇場全体が闘いながら進めている状況です」

 コロナ禍で舞台芸術への不要不急論に直面、演劇が文化として根付いていない現実にも苦悩した。一方、「演劇の根本的な魅力について考えるきっかけにもなった」と明かす。

 それは観客がいて初めて作品が成立する事実。「舞台上で表現する断崖絶壁や海、広大な山脈…。これらを思い浮かべるのはお客さんのパートなんです。500人の観客がいたら500人分の想像がそこにある。僕たちは向かい合う皆さんの想像力を頼りに、日々作品を紡いでいます」

「コロナ禍の上演。どんな形になっても、お客さんの想像力が空間を埋めてくれるはず」と語る長塚圭史=横浜市中区(撮影・花輪久)

 「観客とある種の『契約』が結ばれる場所」とも形容する劇場の面白さを、まだ見ぬ客に届けたい。コロナ禍で強くした思いが、「より開かれた劇場」を目指す芸術監督としての信念につながった。

 そうして打ち出された2021年度のラインアップは、横浜・野毛をモデルにした人間ドラマ「虹む街」(タニノクロウ作・演出)、野木萌葱(もえぎ)作「湊横濱荒狗挽歌(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび)」(シライケイタ演出)、戦後を代表する横浜生まれの劇作家秋元松代作「近松心中物語」(長塚圭史演出)、「アルトゥロ・ウイの興隆」(白井晃演出)の再演、生と死と向き合う翻訳劇「ラビット・ホール」(小山ゆうな演出)など注目の作品が並び、従来のKAAT同様、ダンスや現代美術の企画も充実している。

 監督就任後の1作目を飾る舞台「王将」─三部作─(北條秀司作)はまさに、「開かれた劇場」を象徴する一作となる。17年に長塚らによる演劇ユニット「新ロイヤル大衆舎」が東京・下北沢の小劇場「楽園」で上演。大阪生まれの天才棋士・坂田三吉の生涯を描いた本作を、開放的な空間が広がるKAAT1階のアトリウムで披露する。

 下北沢公演では衣装を着た俳優が商店街にはみ出る小劇場ならではの展開も。「その状態が本当に面白くて、とても豊かに感じたんです」と長塚。アトリウムに特設劇場をつくるKAAT版でも、地域に演劇が溶け込んでいく、そんな現象を生み出すのが理想だ。

 「前を通ると『あそこ変だな、何かやっているな』とのぞきたくなるような空間をつくりたい。この劇場が劇場たる事実を道ゆく人たちに知ってほしい」

 芸術監督の交代は「劇場が時代と共に変化することの表明」だと受け止める。KAATは開館10年を迎えた。積み重ねの重みを感じつつ、「まだまだ動き続けられることを証明したい」と意欲を見せる。

 コロナ禍の変革は困難を伴うが「大変さをくぐらないといけないのが劇場」と言う。「現実と虚構のはざまで魔法がかかったような世界が出来上がるのが舞台。お客さんとの距離を縮めながら、その喜びを伝えたい。劇場を『開く』信念は曲げずに、5年の任期をやり抜きたいですね」(服部 エレン)

 長塚が構成台本と演出を手掛ける「王将」は5月15日~6月6日。一般6千円、セット券1万7100円ほか。出演は新ロイヤル大衆舎メンバーほか常盤貴子、江口のりこら。問い合わせはチケットかながわ、電話(0570)015415。

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