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野村萬斎に聞く舞台「子午線の祀り」

芸能 | 神奈川新聞 | 2021年2月19日(金) 19:21

「過去は実はそんなに遠くない。過ちを繰り返す歴史に思いを至らせられる空間にもなるといい」と語る野村萬斎=横浜市中区(撮影・吉田太一)

 「平家物語」を題材に天の視点から人間の葛藤を描いた舞台「子午線の祀(まつ)り」(木下順二作)が今月、KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で上演される。2017年に続き演出を担う狂言師の野村萬斎は、コロナ禍の現在を念頭に作品を再構築。「時空を超越した空間で、観客もイマジネーションや創造性を発揮する場になる」と本作を語る。

 萬斎演じる平知盛や源義経らが中心となった源平合戦を宇宙から見下ろし、人間の内面を洞察した名作戯曲。平家の旗色が悪化する中、壇ノ浦の決戦を迎えるまでの両軍の姿を躍動感あふれる表現で映し出す。

 初演は1979年。宇野重吉ら名だたる演劇人が演出し、能・狂言、歌舞伎、現代演劇で活躍する俳優陣が結集した。同じせりふを朗誦(ろうしょう)する「群読」も圧巻。演劇史に名を刻む傑作として再演を重ね、99年の公演から知盛役を務める萬斎は2017年以降、演出も兼ねている。

 「僕は能や狂言の古典に負けない作品づくりを目指している。17年版も捨て難いですが、それに劣らぬ舞台になるという手応えを感じています」。前回の演出をベースに再創造する今回は、より現代劇に寄せた解釈で上演するという。

 広大な宇宙空間にぽつねんとたたずむ人間の存在が本作の肝でもある。

 「恐ろしいほど俯瞰(ふかん)した天の視点から見える人間は本当に小さな存在。だけどやっぱり人は今を一生懸命生きるからこそ人なんだという二律背反の中で物語のコントラストが浮かび上がります」。戦の勝敗よりも、愚かさを含めた人々の営みを包み込む壮大なスケールで人間群像を紡ぎ出す。

 コロナ禍を踏まえ上演時間を短縮するなど従来とは異なる対応を要するが「制約は新しい創造の源」と迷いがない。舞台装置も一新し、能舞台を円形にしたセットに三日月が浮かぶような美術を設けるなどする。

 「それは月にも波にも見えたり、移り変わる時間の要素もあったり、こつこつとした磯の岩や船のイメージにもなったりする。そぎ落とした小さな空間で大きく想像力に訴えるのです」

 現代から平安時代にタイムスリップする心地を観客は覚える。その重要な役割を担うのが若村麻由美演じる舞姫・影身の内侍(ないし)だ。「時空を超える皆さんの入り口となる存在。そこで知盛や義経ら自らの運命を知らない者たちが命懸けで生きるさまを共に見つめます」「喜んだのもつかの間、あすは悲劇が生まれる。そうした無常感に皆で涙を流したり感動したり、これが劇場の素晴らしさです」

 「芸術作品は時代を映す鏡」と語る萬斎は、本作も現代に連なる普遍性が立ち上ると言う。「我慢を強いられるコロナ禍の閉塞(へいそく)感は戦争状態と通ずるものがある。この時期に演じることは苦しみもありますが、今だからこそ舞台に立つべきとの強い意思があります」

 戯曲名の「祀り」は英語でレクイエム。鎮魂を意味する。「他者の死を悼むと同時に自らが生かされていることに感謝する。世界は今、足元が揺らいでいますが、舞台を見た後に大地を踏みしめて歩こうと思えるような、皆さんの活力になれば大変うれしいですね」

 21~27日(22日休演)。共演は成河(そんは)、河原崎國太郎ら。S席8500円、A席5千円など。問い合わせはチケットかながわ、電話(0570)015415。

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