【2020年10月4日紙面掲載】
※シンガー・ソングライター
先日、歩いていたら靴のストラップが突然ちぎれた。すぐにコンビニでソーイングセットを買い適当に繕ったが、ちょうどいい色の糸が入っていなかったため、縫い目が少々目立ってしまった。でもそれはそれで刺繍(ししゅう)みたいでなんだかかわいいなと思った。
いきなり何かが壊れたりするなんて、縁起が良いか悪いかで言えばたぶん悪い方の出来事である。
正直ほんの一年前の自分だったら、「もう今日は何をしてもダメだ」とその瞬間に立ち直れなくなっていた。そして一度落ちた気分を元に戻すには、新しいものを買うなりその日の予定を丸ごと変えるなり、すべてを一新することでしか解決できなかった。でもなぜか今の自分は不思議とそうはならない。
起こってしまったことは仕方がないし、時は過ぎて行く。慌てたって嘆いたって前には進まなければならないし、そうしているうちに自然と忘れられることもある。だからこそ目の前のありのままをなるべく良いものにしよう、そう思える。
少し前までは、それはただの諦めや妥協だとどこかで思っていた。でも今は、そのやるせなさも含めて受け止めることで見えてくる何かがあることを知っている。予定通りにいかない方がむしろワクワクする自分さえいる。
予定通りにいかないで言うと、今年は衣替えをするタイミングもよくわからないまま気付けば秋になっていた。年々ぼやけていく季節のグラデーションに振り回されるのは面倒くさいが、これはこれで新たな発見があるから嫌いじゃない。
夏らしいと思って買った黄色いTシャツも、とりあえず茶色のカーディガンを合わせてみたら秋っぽくなった。素足ではいていたサンダルには、思い切って靴下を合わせてみるのもいい。
そうやって、今あるものでどこまでできるかを考える時間はとても有意義だ。今は今なりのやり方で、季節も何事も楽しんでいけたらと思う。