10月2日からkino cinema横浜みなとみらいで上映。
ドイツを代表する現代美術の巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生をモデルに、真実を求めて芸術に立ち向かう若き芸術家の苦悩を描きながら、ナチスによる非道な行いの糾弾にも踏み込んだ3時間に及ぶ大作。
リヒターの叔母は、優生思想に基づくナチスの安楽死政策によって殺害されたが、後にリヒターが結婚した妻の父は、親衛隊中佐として同政策の加害者だったという。
ドナースマルク監督は、この奇妙な巡り合わせに心を動かされ、リヒター本人へのインタビューを含めた綿密な取材を基にして、壮大なフィクションに昇華させた。
「真実は全て美しいの」という叔母の言葉が忘れられないクルト(トム・シリング)=写真。芸術は党や労働者の役に立つべきもの、という東ドイツのアート界に違和感を抱き、ベルリンの壁が築かれる直前、妻と共に西ドイツへ逃亡する。
前衛芸術の最前線デュッセルドルフで美術学校に入り直し、自分だけの表現を求めて葛藤する。ついに、これだという表現にたどり着くが、図らずも義父が隠す過去を暴くものだった。
人間や芸術の存在意義を「社会の役に立つか、立たないか」という尺度で決める愚かしさと恐ろしさを、全編を通して力強く訴える。自分勝手な義父の姿は「津久井やまゆり園」の事件をほうふつとさせた。
監督/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
製作/ドイツ、3時間9分