木もれ日 関取花
バスに揺られて

芸能 | 神奈川新聞 | 2020年9月7日(月) 19:33

 【2020年9月6日紙面掲載】
※シンガー・ソングライター

 少し前、初めて深大寺に行った。ずっと行ってみたいと思っていたのだが、アクセス的にバスに乗らねばならないということが邪魔をして、これまでなかなか行けずにいたのである。

 そんな中、先日丸一日オフの日があったので、今日こそはと早起きをして私は吉祥寺駅からバスに乗り深大寺に向かった。

 1人暮らしを始めて東京に住むようになってから、私はずっと吉祥寺から割と近いところに住んでいる。しかし、吉祥寺からバスに乗ってどこかへ出掛けるのは実は初めてのことだった。

 そもそも都内でバスなんてほとんど乗らない。乗るとしても仕事目的でやむを得ず利用することしかなかった。そして決まって車中では爆睡。

 だから、吉祥寺から深大寺までのバスの道のりはとても新鮮だった。遠足気分でワクワクしながら窓の外を眺めていると、今まで気付かなかった街のグラデーションを感じた。

 吉祥寺駅周辺を走っているうちは大きな建物も多く、並ぶ看板も派手なものが目についた。歩いている人の服装もどこか洒落(しゃれ)ている。

 しかし、少し進んで狭い道に差し掛かると、昔ながらの店の色褪(あ)せた看板がなんともいい味を出し始めるのだ。店の前では打ち水をするおばあさん、錆(さ)びた自転車に乗って通り過ぎる少年。揺れる木々も街路樹ではなく、小さな庭からはみ出して揺れる百日紅(さるすべり)へと変わって行く。

 そんな何げない街の様子を眺めているうちに、窓の外には徐々に緑が増え、道も広くなり、いつの間にか深大寺に到着していた。乗車時間の30分は本当にあっという間だった。

 思えばいつの日からか、いかに速く楽に目的地にたどり着くかしか考えなくなってしまっていた。でもどこかに出掛ける楽しみというのは、何も目的地だけにあるわけではない。その過程や道のりにだってたくさんの発見や楽しみはある。

 そんなことにあらためて気付いた、20代最後の夏。

関取花に関するその他のニュース

芸能に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

カルチャーに関するその他のニュース

アクセスランキング