取り壊しの崇善公民館
部材使い小学生と制作

戦後に旧平塚市議事堂としても使用され、昨年11月に取り壊された旧崇善(そうぜん)公民館(同市見附町)の記憶を後世に伝えようと、市内在住の日本画家・後藤真由美さん(37)と地元の小学生らが旧公民館の部材を使った美術作品を制作した。作品は新公民館に飾られ、16日、お披露目された。後藤さんは「子どもたちの個性が詰め込まれた宝物。積み重ねられた思いを感じてほしい」と呼び掛けている。
旧公民館は1928年、旧平塚尋常高等小学校として建設。戦後に増築され市議事堂として使用され、65年に公民館に転身し半世紀にわたって地域住民に愛された。老朽化により昨年4月に新公民館に移転、建て替えられた。

解体工事前に歴史ある建物の思い出を残したいと公民館が後藤さんに作品の制作を依頼。1月に地元の市立崇善小学校の児童約30人が後藤さんから指導を受けて手掛けた。
「伸び行く崇善」と題した作品は、縦120センチ、横90センチ。戦前に小学校で使われていた黒板をキャンバスにし、子どもたちが瓦ぶき屋根の和洋折衷の旧議事堂を描いた。その上から床板に使われた木片をパズルのように貼り付け、旧公民館前に立つ樹齢125年のクスノキの大樹を表現した。
子どもたちと話し合った作品のテーマは「昔からの平塚の宝物をつなぐ」。キャンバス代わりの黒板にはうっすらとチョークの後が今も残り、部材にした木片には古い傷も刻まれる。「時間の積み重ねとともに多くの人々の思いが込められてきた」と思いをはせる。
同校卒業生でもある後藤さん。旧公民館で物作り講座に参加したこともあり、クスノキ周辺は遊び場の一つだった。1895年に植えられ堂々と立つ大樹の姿に「力をもらい、癒やされた。子どもたちにもあの木のように力強く生きてほしい」との願いを込めた。

学びやから公民館へ。ともに成長し見守ってきたクスノキに自身の姿を重ね合わせる。子どもの頃から夢だった海外での初の展示会は、新型コロナウイルスの感染拡大で中止に。それでも「自分もまだ発展途上。子どもたちと同じように成長していきたい」と前を向く。
この日、新型コロナの影響で断続的に休館していた公民館は利用再開となり、3カ月ぶりに市民グループによるダンスや歌声などが戻った。鈴木正美館長は「やっと平常が戻り一安心。古い建物を残してほしいという声も多かっただけに多くの人に作品を見てもらえれば」と期待を寄せた。