季(とき)めく暮らし
【蛍】

文化 | 神奈川新聞 | 2020年6月15日(月) 17:03


甘い香りの花に大気が包まれる6月。そんな宵に蛍はともります。

【2020年6月14日紙面掲載】

 5月の終わりから6月にかけて、家からそう遠く離れていない所に、蛍が飛びます。夜空に光る星とよく似ていて、見間違えるのもこの時季の楽しみです。

 記憶が曖昧なほど幼い頃に見ていた蛍とは何かが違うな、と思っていたら蛍の光る場所でした。今見ている蛍は、高く高く舞い、広がるように空間を飛びます。記憶の中の蛍は、川や田んぼのような場所で静かに地面をともしていました。

 蛍とひとくちにいっても、飛び方、光る場所などで、ずいぶん趣が違ってくるものです。幼い私は、きっと小さな足元を照らす明かりを不思議な気持ちで見つめていたのではないかと思います。

 暗闇と静けさの中で、蛍の点滅を眺めていると、さまざまな思いがよぎります。静かにほほ笑む故人を懐かしく思い出すこともあれば、大切な人に会いたくなる人もいるでしょう。今日はうまくいかなかったな、次はがんばってみようと思いをはせることもあります。

 ほんの短い時間なのに、いくつもの思いがめぐります。人は蛍の光の美しさだけでなく、そんな時間も求めているのだと思います。

 古典の中に描かれた蛍からも、恋する気持ち、人の魂など、さまざまないにしえの人の気持ちがうかがえます。

 物おもへば 沢の蛍も 我が身より あくがれいづる 魂かとぞみる
                    和泉式部 「後拾遺和歌集」
 夕されば 蛍よりけに 燃ゆれども 光みねばや 人のつれなき
                      紀友則 「古今和歌集」

 行事研究家・文筆家 広田千悦子、写真 広田行正

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