
同性パートナーと子どもを育てた一人の女性の半生が、一冊の本になった。著者は都内に住む40代の小野春さん。自身のセクシュアリティー(性のあり方)に気が付いた時の心細さから、さまざまな出会いの中で前を向いていく過程がつづられる。LGBTなど性的少数者が当たり前の未来を描けるようにと願う、小野さんの深い思いが込められている。
タイトルは「母ふたりで“かぞく”はじめました。」(講談社、1540円)。同年代のパートナー西川麻実さんと出会い、共に家族を築いたおよそ20年間の言葉が詰まっている。
本の冒頭、西川さんとの一場面をこう記す。「世界から見捨てられた私たちのことを気にかけてくれる人がいる。まったく予期せぬタイミングで、救世主がチャイムを鳴らして現れたのです」
小野さんは当時、孤独な子育ての渦中にいた。仕事で多忙な元夫は不在がちに。2歳の長男と高熱にうなされていた冬のある日、半年前の飲み会で知り合った西川さんが偶然自宅に立ち寄り、すぐに病院へと連れて行ってくれた。
「彼女はずっと私の希望でした」。小野さんは迷いのない言葉で言う。「ロマンチックな存在ですね」。西川さんは少し気恥ずかしそうに、小野さんをこう表する。

そんな二人が連れ添って15年。出会った当初はそれぞれに男性の結婚相手がいたが、小野さんは息子二人を、西川さんは娘一人を授かり、離婚した。やがて西川さんと娘が小野さん宅で食卓を囲む日が増え、同居。「5人で家族になろう」と決意する。
小野さんは女性も男性も好きになるバイセクシュアル。自身の性に初めて疑問を持ったのは高校生の頃だった。同性に淡い恋愛感情を抱き、当時の世間の規範に呼応するように罪悪感を覚えた。負の感情はしばらく拭えず、西川さんと交際するようになってからも、内なる同性愛嫌悪に苦しんだことを本書は明かす。
一般的な家族像から外れたようで、疎外感にさいなまれた小野さんはしかし、多様な出会いを通じて変わっていく。子育てする性的少数者の仲間、レズビアンの母を応援する米国のNPOスタッフ、娘との関係に悩んだ時に寄り添ってくれた、子連れ再婚家庭の支援団体、そして、そばで支えてくれる西川さん。「いつも道筋を示してくれる人たちに救われてきました」
二人は今、同性同士で結婚ができないことの違憲性を問う「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告としても活動する。
小野さんは運動会や文化祭など娘の学校行事に顔を出し、西川さんは息子の勉強を熱心に教えた。幼かった三人は大学生と高校生に。時に衝突しながらも、血のつながりを超えた確かな家族の姿がここにある。
「隣の人の話としてこの本を読んでもらえたらうれしい」と小野さんは言う。親が同性カップルだと知られ、わが子が偏見にさらされるかもしれないといった不安を抱える家族は現実にいる。性的少数者の家族は特別な誰かではない、あなたのそばにもきっといる─。本を通じて、こう伝えたいと思う。
結婚や子の親となることを望む若い世代の性的少数者が、その未来を当たり前に描ける世界に思いをはせつつ、小野さんは軽やかに本書を締めくくった。
「わが家の子どもたちが、将来『誰かと結婚したい!』と思ったときに、親がLGBTだということが、支障にならない世の中になっているといいなぁ」
それが、何よりの願いだ。