
海老名や厚木、大和といった県央地域を主な活動拠点とするプロオーケストラ「神奈川県央管弦楽団」がこのほど誕生した。同団の音楽監督兼常任指揮者に就任したチェリストの伊藤悠貴(30)が、意気込みと自身の演奏活動について語った。
同団は、2016年に県央地域で活動するプロの音楽家らが結成した「県央音楽家協会」が、「いい音楽を身近で聴ける機会を増やしたい」との思いで、外郭団体として設立した。
団員はオーディションと並行して、海外のオーケストラでコンサートマスターを務めたり、国内オーケストラの元団員だったり、といったレベルの高い演奏家が集まっているという。
同協会のコンサートにかつて友情出演した伊藤は、オーケストラ設立の計画を聞いて「その際は力を貸したい」と申し出ていた。
伊藤は15歳で渡英し、英国王立音楽大を首席で卒業。10年ブラームス国際コンクールで優勝、11年英国最高峰とされるウインザー祝祭国際弦楽コンクールで日本人初優勝、19年齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞など、今最も注目されるチェリストの一人だ。英国で立ち上げたナイツブリッジ管弦楽団の芸術監督を務めるなど、指揮者としての活動も広げている。
神奈川県央管弦楽団について「僕とオケの距離を縮めていきたい。1回だけ振っておしまいではない」と話す。第1回定期演奏会を今年9月12日に海老名市文化会館で行う。演奏するのはモーツァルトの交響曲第35番ハフナーや、ベートーベンの交響曲第7番などの古典だ。
「日本はオーケストラが多い国。その中において亜流な路線を狙うつもりはない」と正統派をそろえた。
自身はラフマニノフ研究家として、あまり知られていない曲を発掘し、歌曲や交響曲を自ら編曲してチェロで演奏している。
「自分が書いたんじゃないかと思えるほど、共感している。自分自身を投影できる。そんなことは他の作曲家では経験したことがなかった」という。
23年はラフマニノフ生誕150年の記念イヤーとなる。「僕が音楽監督をやっている以上、このオーケストラでやらないなんてありえない。かなり大きな情熱をもってやりたいと思っている、一番近いところの大きな目標」と力を込める。
18年から毎年1回はオールラフマニノフのプログラムによる演奏会を行っており、今年は5月15日に横浜みなとみらいホール(横浜市西区)でピアニストの上原彩子とのデュオリサイタルに臨む。交響曲2番のアダージョをチェロ版に編曲して世界初演するほか、六つの歌曲をチェロとピアノに編曲して構成した「6つの祷(いの)り」などを披露する。
「ラフマニノフは歌に魂を込めている。人の声に近いとされるチェロで演奏することに、すごく意味を感じている」
「伊藤悠貴&上原彩子」デュオリサイタルの問い合わせは神奈川芸術協会TEL045(453)5080。神奈川県央管弦楽団の定期演奏会チケット発売は、同団のホームページで5月ごろ発表。