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木もれ日
関取花のエッセー 足りない

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2023年5月21日(日) 12:00

 ゴールデンウイークは横浜の実家に帰っていた。1泊くらいはよくするのだが、何日も続けて泊まるのはかなり久しぶりのことだった。

 1日目は、昼間から母と散歩に出かけた。まっすぐ歩けば20分くらいの公園まで、遠回りをして1時間くらいかけた。商店街のお店が変わったこと、近所の家がリフォーム工事を始めたこと、花壇の花が咲いたこと…。話は尽きなかった。

 公園にはシロツメクサがたくさん咲いていた。母は子どもの頃、よくシロツメクサで冠を作って遊んでいたらしい。私はあまりそういった記憶がなく、作り方も実は知らないと話すと、母もかつて私の祖母から教えてもらったのだと懐かしそうな顔をした。「教えてあげたいこと、話したいこと、まだまだたくさんある」と母は言った。

 夜は父がお薦めする町中華に行った。なんとなく落ち着いた雰囲気の店が好きなイメージだったのだが、「結局こういうのが一番」とのことだった。意外な一面を知った気がした。

 次の日は午前中から3人で出かけた。「くりはま花の国」(横須賀市)に行った後、三浦海岸へ移動して海を眺め、その後は近くの農産物直売所で野菜などを買った。晩ご飯の相談をしながら店内をぐるぐる回るなんて、いつぶりだろう。そんなことをゆっくり考える時間もないくらい、私たちはとにかくずっと話していた。重大な内容なんか一つもない。当たり前の日々の、何げない出来事の話。

 家に帰った後は、母の手料理をたらふく食べた。ゆっくり風呂にも漬かり、いい時間になって1人布団に入った時、私はふと思った。あと何回こういう時間を過ごせるのだろう、と。

 1年に1回こんな機会があったとしても、せいぜいあと数十回。そんなの嫌だ。全然足りない。

 じゃあどうするか。答えはとてもシンプルだった。もっと会いに行けばいい。知りたいこと、話したいこと、まだまだたくさんあるのだから。

(せきとり・はな、シンガー・ソングライター)

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