世界的に活躍する横浜出身の演劇作家、岡田利規が台本を手がけた舞台「掃除機」が3月4日、KAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で開幕する。ドイツで絶賛された話題作で、日本では初上演。「初めて家族を扱った作品」と語る岡田に、公演に向けた思いを聞いた。
高齢の親が中高年の子どもを支え、孤立する「8050問題」が題材。2019年にドイツの公立劇場で初演し、同国の演劇祭で「注目すべき10作品」に選ばれるなど高評価を得た。日本語での上演も今回が初めてとなる。
80歳を過ぎた父、ひきこもりの50代娘、無職の40代息子の日常を、「デメ」と呼ばれる掃除機の視点で描く。デメは今にも壊れそうな3人をつなぎ留める存在。現代社会を鋭く見つめる観察眼と、ユーモアあふれるせりふ回しが観客の視野を広げていく。
自ら作・演出を兼ねた初演時と異なり、今回は劇作家の本谷有希子が演出を担う。「自分の戯曲を他の人に演出してもらうことに興味があった。やっとその喜びを味わうことができた」と明かす岡田。「同時に、(演出や役者ら)作り手の人たちがいかに僕のテキストを批評していくか。そこにドキドキしています」
着想のきっかけは新聞の相談欄だった。「ひきこもりの子どもがいる高齢の親の投書を読んだんです。ストレスを抱えた子どもが掃除をしながら叫んだり、彼らに罵詈(ばり)雑言を浴びせたりする内容で、そこからヒントを得ました」
家族の話を書くのは初めて。「ひきこもりはすなわち家族の問題。『家族、社会人とはかくあるべし』という考えありきで生まれる問題を扱っています」。世間が理想とみなす家族像とともに、一家を取り巻く抑圧や閉塞(へいそく)感が浮かび上がる。
日本語版の上演に合わせて台本を微修正するなどしたが、舞台空間も役の人物像も現場が作り、深めていく。「だから僕は割と人ごとっていうか。観客の立場に近いんですよね」と笑いつつ、「僕の演出では生まれない本谷さんならではの舞台がお客さんに届けられる。反応が楽しみです」。
演劇カンパニー「チェルフィッチュ」を主宰し、小説家としても存在感を発揮する。「演劇は複数の仲間と作り上げ、小説は基本的に全て独りでこなす」と創作過程の違いを説明。今後も演劇、小説ともに取り組んでいきたいと話す。
演劇で手がけたい題材は「人間が中心ではないもの」だという。「演劇は役者の演技が中心。だからおのずと人間を見ることになる。『掃除機』もすごく人間の話ですよね。漠然としていますが、いつかそうじゃない戯曲を作ってみたいんです」
3月22日まで(6、13、17日休演)。一般6500円ほか。問い合わせはチケットかながわ、電話(0570)015415。
ドイツで絶賛された話題作 舞台「掃除機」日本初上演
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「自分の戯曲を他者に演出してもらうことは、演劇作家として大きな喜び」と話す岡田利規(撮影・立石祐志) [写真番号:1142445]