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文芸創作のいま
現代詩の新しい潮流 注目集まる「インカレポエトリ」

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2021年12月21日(火) 17:06

インカレポエトリを手にする山本さん(左)。樋口さん(右)の指導を受けながら自身の作品をまとめ、インカレ叢書としての詩集の刊行を目指している=関東学院大学

 国内の大学で詩を学ぶ学生たちの詩集「インカレポエトリ」に注目が集まっている。大学で詩を教えていた伊藤比呂美さんや朝吹亮二さんが発案し、2019年に創刊。年2回発行されており、21年11月に発行された5号には14校が参加した。作品選出・編集を行うのは、ほとんどが詩人でもある各大学の教員だ。3、4、5号に作品が掲載された関東学院大学国際文化学部(横浜市金沢区)の山本真那さん(3年)は「先生方に認めてもらい、自信になった」と詩作に情熱を傾けている。

 4号に掲載された山本さんの作品「橙(だいだい)」は、「秋の夕暮れは、走馬灯をミルクに溶かしたみたいな空の色をしていて、勝手にかなしげな音色を添えたくなってしまう」という一文で始まる。子ども時代への追憶と将来への不安を、秋の色彩や香りにのせて切なく描いた作品だ。5号には身体と死を題材にした詩「pnk」が掲載されている。

 子どもの頃から「絵を描くような感覚で」詩の創作を始め、コンクールで入賞した経験もあるという山本さん。高校時代に最果(さいはて)タヒさんの詩集に出合い、大きな衝撃を受けたという。「モヤモヤした可視化できないものを、こんなに美しく言語化する方法があるんだと思いました」

 現在は週2本のペースで詩作を行い、オンラインで発表。同大で「編集出版演習」の科目を持つ非常勤講師・樋口良澄さんのすすめでインカレポエトリに作品を送った。「彼女の作品は、今の若者の生き難さをよく描いている。激しく流動する世界を真正面から引き受ける困難さが伝わってきます」と樋口さんは語る。自らもインカレポエトリの編集委員を務めるが、若者たちの詩からは「過剰の中の孤独」を感じるという。「欠乏の中で、何かを強く探し求めていた昭和時代と異なり、今はあらゆるものに簡単にアクセスできる。だからこそ感じる不安・無力感があるのでは」

 インカレポエトリの参加者の中には、個人の詩集を「インカレポエトリ叢書(そうしょ)」として発表する学生も。大島静流さんの「飛石(とびいし)の上」、小島日和さんの「水際」はいずれも第26回中原中也賞の最終選考作品に選出され、小島さんの作品が同賞を獲得した。

 若者たちの詩作について樋口さんは「現代詩はもともと、戦時中の戦意高揚に加担してしまった詩人たちの反省から始まったこともあり、難解で思想的な作品が多かった。しかし今は最果タヒさんら、誰もがすんなり理解できる新しい現代詩の面白さを味わう潮流が生まれてきているように思います」と分析する。

 授業では学生の「内なる引き出し」を開けられるよう後押ししているという樋口さん。伝えているのは「平易な言葉を使っていても、改行すると新たな表現が生まれる不思議さ」だ。「形式にとらわれず、自分の大切なものを表現してほしいですね」

 
 

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