専修大学文学部(川崎市多摩区)日本文学文化学科・小林恭二教授のゼミでは2年生から大学院博士課程まで、26人が小説の執筆に取り組む。約3時間の授業中、筆者の朗読で発表されるのは3作品。全力で言葉と格闘する学生たちの顔は、創作への情熱と充実感に満ちていた。
今月5日、授業冒頭で発表されたのは新澤美夢さん(3年)の作品「ポラリス、こころの星」。幼い頃に母親を亡くした主人公が、母代わりのように頼りにしていた親友が結婚してしまうことにショックを受け、苦しみながら自立していく姿を描いた作品だ。「非常に完成度が高い。主人公の心の中にある冷えた部分や緊張感が描けている」と小林教授が口頭で批評を加える間、ゼミ生は作品の批評を執筆する。批評文はオンラインで共有され、授業の後半では学生の批評に対して、さらに小林教授がコメントを付け加える。
「批評を書くことは短時間で印象をまとめるトレーニングになります」と語るのは塩澤京夏さん(同)。「筆者が力を入れて書いた文章は作品の中でも輝いている。なぜその言葉を選んだのか深く考えるようになり、読書の質も変わりました」と安田真裕さん(同)も声を合わせる。
「以前から、人に読んでもらえる小説を書いてみたかった」と筒井健太朗さん(同)が語るように、ゼミには創作への熱意を持った学生が集まるが、ゼロから作品を書き上げるのは容易なことではない。「執筆のために20冊程度資料を読むので、1週間かかりきりになってしまいます」と塩澤さんは苦笑いする。
「小説執筆のための一般論はあるけれど、作品が型にはまってしまうので手取り足取りの指導はしない。みんな必死にもがきながら書くことを覚えていきます」と小林教授。ゼミ生が執筆する作品は当初、5千字以内で舞台は現代、自分と同じ性別・近い世代の主人公を設定するという制限があり、書いたものが認められるとその枠が外されていく。「小説を書くということは自分や、自分が育ってきた環境を見つめるということ。その中で、それぞれが書けることを見つけていきます」
徹底的に自己と向き合い、表現を磨いてきたゼミ生たち。塩澤さんはマスコミ業界、筒井さんは映像表現への憧れを語る。「人間は、困難に対してどう折り合いをつけるのか」というテーマをもっと突き詰めたいという安田さんは、大学院で創作の勉強を続けることも考えているという。
小説家の、こざわたまこさんを輩出している同ゼミ。卒業論文では研究の集大成としての小説を仕上げるが、自身も小説家として活躍する小林教授が驚くような秀作を書き上げるゼミ生もいるという。「将来、物書きにならないとしても、文学賞やコンクールなどにはぜひ挑戦してほしいですね」と小林教授は期待を寄せている。
全力で言葉と格闘する 専修大学小林恭二ゼミ
1年に複数回発表する作品の執筆を通して、それぞれの世界観と作風を構築していく=専修大学生田キャンパス [写真番号:914750]
㊧卒業論文集にはいずれも熱量の高い作品が掲載されている㊨同大で毎年開催している、文芸作品コンクール作品集 [写真番号:914751]