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追う!マイ・カナガワ
横浜・有隣堂本店に謎の絵(上)手掛かりは「Tociau」

文化 | 神奈川新聞 | 2021年9月19日(日) 05:00

 「もう、何年も前から気になっていたのですが」という疑問が、横浜市南区の男性会社員(53)から「追う! マイ・カナガワ」取材班に届いた。伊勢佐木町(横浜市中区)の有隣堂本店にある絵が「作者名もタイトルも見たところありません。どんな経緯で飾られたのかも気になります」という。

 “ハマっ子の本棚”とも言える有隣堂本店に掛かる絵の正体は?


有隣堂本店に飾ってある謎の絵

 謎の絵があると聞き、文化部で美術を担当して10年になる下野記者が、有隣堂本店に足を運んだ。正面玄関を入って左側、高い位置の壁に、確かに大きな絵が飾ってある(写真【1】)。

 全体的にくすんだ茶系の画面。右側に足を交差した人物、左にはテーブルと椅子。テーブル上に丸い花瓶、白いポット、果物、魚の載った皿などが並ぶ。テーブルは真上からの視点だが、ポットは横から。人物も簡略化された線で描かれている。20世紀初頭に流行したキュービズムと呼ばれる前衛美術に特徴的な表現で、ピカソの作品が有名だ。

記されたサイン

 一体、誰の作品なのか。有隣堂によると、「以前もお客さまから問い合わせがありましたが、調べられなかった」という。

サインは「Tociau―’53」

 吹き抜けの2階に上がって画面に近づくと、人物の隣にサイン(写真【2】)があった。「Tociau-’53」。何と読むのだろう。トチオウ? 制作が1953年とすると、有隣堂本店がオープンした56年より前に描かれたらしい。

 神奈川県立近代美術館をはじめ、横浜美術館や平塚市美術館、横須賀美術館、県民ホールギャラリー、横浜市民ギャラリーなどの学芸員に声を掛け、思い当たる画家がいないか、尋ねてみた。

 すると何人かの学芸員から「としお」と読むのではないか、との返事が。晩年をフランスで過ごした画家の藤田嗣治(1886~1968年)も「Foujita」とサインしており、外国語っぽくしゃれっ気を出したのかもしれない。

 「県内の画家でとしおといえば」と記憶をたぐって思い浮かんだのは、小関利雄(おぜきとしお)(1907~89年)だ。逗子で幼児教育に尽力したことで知られるが、若い頃は美術団体「新制作」に所属し、横浜国大の美術科で教壇に立っていたこともある。

「作風も違う」

大佛次郎夫妻が訪れた1970年代の有隣堂ギャラリーの様子

 戦後間もない50年代の横浜市内には、美術館や博物館が存在しなかった。

 有隣堂本店の4階にあったギャラリー(写真【3】)は、横浜美術協会の「ハマ展」や県美術協議会の「アンデパンダン展」、春陽会の「デメテール展」などの会場として貴重な場であった。

 横浜の美術文化を支えたビルに、地元で活躍した画家の作品が飾られていても不思議ではない。

小関利雄「佛家族」(1981年、県立近代美術館蔵)

 期待を高めて、「小関利雄説」を美術関係者にぶつけてみた。

 だが、小関の作品3点を所蔵する県立近代美術館の学芸員によると、小関のサインは「OZEKI」で「作風も違う」(写真【4】)とのこと。

 作風やサインが若い頃と晩年で変わることは珍しくないのだが…。

がっちりと固定

 絵を取り外して裏面を確認できれば、画家の名前や題名、いきさつなどが分かるかもしれない。「外すなら立ち会います」と申し出てくれた学芸員もいて心強かった。

 有隣堂も「せっかくなので外して調べてみましょう」と前向きだったが、絵は壁面にがっちりと固定されており、取り外しは困難ということだった。

 他にそれらしい画家はいないか、調べを進めていくと、あるギャラリーのオーナーから「当時は、絵画クラブのような文化活動が職場でも盛んだった。有隣堂の社員や関係者で絵が得意な方の作品だったのかも」との推理が出てきた。

 もしそうだとしたら、有隣堂本店ビルの設計と建築を担当した竹中工務店(大阪市)に資料が残っているかもしれない。(下野綾、蓮見朱加)


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