小説家の夢枕獏や、脚本家の古沢良太を輩出している東海大学。文化社会学部文芸創作学科所属の「文藝(ぶんげい)工房編集委員会」は年に1回、学生たちの作品を掲載した文芸誌「文藝工房」を発行している。編集作業や合評を行いつつ、自らも執筆に励む委員会のメンバーの表情には、仲間への信頼感と創作の喜びがみなぎっていた。
「文藝工房」に掲載される作品は、同学科の教授が審査を行う「創作コンペティション」入選作のほか、編集委員が選んだ作品、コラムなど。どの原稿にも作者の情熱がにじんでおり、読み応えがある。
現在の委員会メンバーは約30人。編集に関心があり、創作について語り合える仲間を求めて参加したメンバーが多いという。編集長を務めるのは木部聖也(きべせいや)さん(3年)。「みんなで作品について語り合うことで複眼的な見方ができるし、その人の知らなかった一面が見えるのも面白いです」と語る。この経験を糧に、将来は編集や文芸に携わる仕事をしたい、と目を輝かせる。「倫理観やジェンダーなどシリアスな話題についても、作品を通すことで深い対話ができます」と話す宇治村日和(うじむらひより)さん(同)は、高校時代にけがで運動部を辞めた時に文学に救われたという。「当時つらかった事も、いま小説に昇華しようとしているところです」
それぞれが創作にかける思いも強い。今年3月発行の第25号に小説「老幼の海景」が掲載されている伊藤大智(たいち)さん(同)は「ありきたりでないものを書きたい。他の人の作品を読んだ後に、自分だったらこうする、というメモを作っています」と意欲を見せる。白沢貴悠(たかはる)さん(1年)は現代詩や短歌・俳句の創作にも取り組む。「短歌や俳句はふと思いつく。日常の中にあるものを捉え直して創作しています」
お互いの作品に触れることも大きな学びだ。「絵画を見て発想を広げ、文章を作ることに挑戦したい」と話す橋本悠樹(ゆうき)さん(同)が「先輩方の作品も参考にしています」と明かすと上級生から「プレッシャーを感じる」と笑いが起きた。
好きな作家を聞くと、東野圭吾や恩田陸のほか、神奈川ゆかりの遠野遙、宇佐見りんの名前も挙がった。「宇佐見さんの『かか』を読んだとき、自分も感じることがある気持ちが緻密に書かれていて刺激を受けました」と語るのは三上結子さん(2年)。夏に仕上げた作品で、今年の川端康成青春文学賞に挑戦するつもりだ。
研究室を活動の場として提供している三輪太郎教授は「多くの作品に触れなければ良い作品は書けない」と、同学科の学生たちに年間100冊の読書を課しているという。「ある文学賞の新人賞の下読みを十数年続けていますが、年々応募作が増えている。ただ、深い読書体験に基づいていない作品も多い印象があります」と分析する。「明治・昭和の文豪が残した名作を含め、優れた文学作品を読むことで本質を見極められるようになり、人間的にも深みが出てくる。そんな学生たちの変化を見ているのも楽しいです」と頼もしそうにメンバーを見つめた。
東海大学の文藝工房編集委員会 仲間と共に学び深める
毎週火・金曜日の夕方に活動。左から三輪教授、木部さん、宇治村さん、伊藤さん、三上さん、白沢さん、橋本さん=東海大学湘南キャンパス [写真番号:806821]
「文藝工房」バックナンバーの一部はホームページ(https://tokai-bunsou.wixsite.com/bungeikoubou)でも読むことができる [写真番号:806838]