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相模女子大学非常勤講師に聞く 文学の持つ社会的役割

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2021年8月26日(木) 11:37

 性的少数者(LGBT)や在日外国人のリアルな姿を描いた作品で日本文学に新しい風を吹き込んできた台湾人作家・李琴峰(りことみ)さんの「彼岸花が咲く島」が第165回芥川賞を受賞した。台湾文学研究者の劉靈均(りゅうれいきん)さんは「いずれの作品も、現代社会へのメッセージと美しい描写が両立している。世界に通用する文学だと思います」と語る。折しも今年はLGBTを描いた台湾映画の公開が続く。台湾における文学や映画と人々の意識、社会運動の関係について劉さんに聞いた。

 「彼岸花が咲く島」は、沖縄をイメージさせる「島」が舞台。女性に恋愛感情を抱いたことが原因で故郷を追放されたらしい少女は「ニホン語」と、女性のみが習得できる「女語」が話されている島に流れ着く。やがて少女は、島の祖先が住んでいた国“ニホン”が、「美しいニッポンを取り戻すため」に「外人」を排斥した歴史を知る。幻想的な世界観の中にも社会的弱者やナショナリズムに関する鋭い視点を感じさせる作品だ。

 芥川賞の記者会見で李さんは「忘れてしまいたい日本語」は「美しいニッポン」と述べた。「『美しいニッポン』を支えるのは、性的少数者や外国人、先住民族を差別する排他性。李さんの問題意識を感じます」と劉さんは語る。

李琴峰「彼岸花が咲く島」 (1925円、文芸春秋)

 性差別を禁止する法律を整備し、2019年にはアジアで初めて同性婚を合法化するなどジェンダー平等において先進的な台湾。政治的問題意識のもとにLGBTの人々を描いた「同志文学」や映画が人々の意識に与えた影響も大きいという。社会的には1990年代から2010年代、差別が原因で女性や性的少数者が命を落とす事件が起き、彼らの権利を回復するための社会運動が生まれたことなども今日につながっている。

 「台湾の同志文学は誕生当初から政治・社会状況と強く結び付いてきました」と指摘する劉さん。1970年代の台湾ゲイコミュニティーを舞台にした白先勇(はくせんゆう)の「孽子(げっし)」(83年)に描かれているように、戒厳令下の台湾では同性愛は厳しく規制されていた。87年の戒厳令解除後、90年代には多くの同志文学が生まれ、主要な文学賞を受賞するようにもなる。李さんにも大きな影響を与えたというレズビアン小説「ある鰐(わに)の手記」(邱妙津(きゅうみょうしん))が発表されたのも94年だ。「優れた文学や映画を通じて当事者たちの痛みに共感した台湾の人々は、手を携えて社会を良くしようと動きだした。作品の背景には作家たちの強い思いがありました」

 近年、日本でも性的少数者を描いた作品が支持を広げているが、当事者の権利を守ろうという力強い動きにはつながっていない。性的少数者への理解増進を目的とした法案は国会への提出が見送られた。「日本は90年代まではアジアで一番LGBTにフレンドリーな国でしたが、その後は人々の意識があまり更新されていないのかもしれない。台湾同志文学の系譜を継ぐ李さんの作品が日本で評価されたことは大きい意味を持つと思います」

 同性愛者の姿を描いた台湾映画「親愛なる君へ」はシネマ・ジャック&ベティ(横浜市中区)で28日から、「日常対話」は横浜シネマリン(同)で10月2日から公開予定。

りゅう・れいきん 1985年台湾出身。相模女子大学非常勤講師。専門は台湾LGBT文学など。

 
 

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