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タブレット純のかながわ昭和歌謡波止場(8)
【中村雅俊◆恋人も濡れる街角】土着性感じるシティーポップ

文化 | 神奈川新聞 | 2021年8月17日(火) 14:20

【2021年8月15日紙面掲載】

 ♪生まれて来なければ よかったなんて 心が つぶやく日は 人ごみに背を向け 会いに行くのさ 懐かしい海に…

 いきなり今回の本題ではない歌からですみません。砂浜を歩けば僕の中で必ず心に流れてしまう中村雅俊さんの歌声。再放送で夢中で見ていたドラマ「ゆうひが丘の総理大臣」のエンディング曲「海を抱きしめて」(1978年・昭和53年)の一節ですが、あの海は大磯の海であることを後に知りました。

 原付きバイクの免許を取った16の夏、一人でやたらと大磯海岸に行き、しわくちゃな自販機バーガーをはふはふ頰張った深夜の空腹を思い出します。青春とは空腹なものですねぇ。立派な酒飲みになってしまった今や塩辛だけでおなかいっぱいです。

作詞・作曲/桑田佳祐

 もとい、中村雅俊さん。海そのものであるような雅俊さんの故郷、宮城県・マリンパル女川を母と訪ねたのは12~13年前のこと。名誉館長でもある雅俊さんの等身大パネルが「よく来たねぇ」とでも言うようにあの目尻を下げておりました。あの震災から、思い出すのがつらくなってしまいましたが、僕の中で女川の海はあの日の穏やかな夕凪(ゆうなぎ)のまま。そして雅俊さんも、キラキラと輝いておられます。

 僕がオンタイムで見ていた雅俊さんは「恋人も濡れる街角」(82年・同57年)のあたりから。いや、その前に「おしん」で演じていた心優しき山の男“俊作あんちゃん”も好きでした。父が着ていたよれよれのちゃんちゃんこを拝借して兄とよく“俊作あんちゃんごっこ”をしたっけ。雅俊さんの真の魅力はやはりそんな奥底にある暖かな土着性と思えます。

港町のロマンスを描いた「恋人も濡れる街角」の歌詞には馬車道も登場する。横浜市中区・馬車道交差点(1982年、神奈川新聞社撮影)※本文とは関係ありません

 ヨコハマシティーポップな「恋濡れ」は多少の“違和感タイムラグ”が生じたのか? 角川映画「蒲田行進曲」の主題歌でありながら、発売から2カ月は動きがなかったそう。思うに映画自体に雅俊さんの出演はなく、どこか“取って付けた”感が…。同じ頃主演ドラマ「おまかせください」の挿入歌としては自然に映えて、いつしか「ナカムラ・エレキ・音頭」と入れ替わりに主題歌となるや、瞬く間に火が付きました。街の便利屋の奮闘を描いた人情劇、やっぱりわれらがマサトシはこれでなくっちゃ!(エラソーに!)

 さて、先の「音頭」ともども作者は桑田佳祐さん。やはり潮騒でつながります。そしてこの「恋濡れ」は内山田洋とクール・ファイブの「恋は終わったの」(70年・同45年)がモチーフになっているそう。かように桑田さんは、最初に買ったレコードがクール・ファイブのLPだったり、父と湯船で歌ったわらべうたが「ラブユー東京」(66年・同41年、歌/黒沢明とロス・プリモス)だったり、奥さまの「愛して愛して愛しちゃったのよ」では本家マヒナと共演されたりとムード歌謡をオマージュ。さらには「あしたのジョー」(70年・同45年、歌/尾藤イサオ)の作曲や「網走番外地」の音楽で知られる御大・八木正生(まさお)さんと共同編曲するなど、開拓地横浜の土着性をしっかり踏まえているのです。そんじょそこらのニューミュージックにくくるなかれ、さすがです。

絵/タブレット純

 最後に自慢話を…。5年ほど前のこと、ラジオ局のフロアで、どう見ても中村雅俊さんにしか見えないお方が遠い対局線に。夢うつつで気流に吸い込まれるようによろよろと駆け寄り、“海に抱きしめられた”一葉は宝物となりました。そっと優しく腰に手を回してくださったのは、「どこかのおばさん」に間違われたからかも…。「これまでの何千、何万とあった出会いの全てに感謝の気持ちでいっぱい」と先頃古希(何と!)のインタビューで語った雅俊さん。にじみ出る潮騒の在りかがわかる気がいたしました。

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