「よるくま」「金曜日の砂糖ちゃん」などで知られる絵本作家、酒井駒子の初めての本格的な個展「みみをすますように 酒井駒子展」が、横須賀美術館(横須賀市鴨居)で開かれている。物語の言葉の断片、映像やオブジェなどが展示空間を彩り、絵本の世界を五感で楽しめる。
酒井は、東京芸術大美術学部油絵科を卒業後、1998年に絵本「リコちゃんのおうち」(偕成社)でデビュー。以来、子どもや動物、情景の繊細な描写と、絵と響き合う詩的な文が、子どもから大人まで多くの人を魅了してきた。「きつねのかみさま」(ポプラ社)で日本絵本賞、2009年には「ゆきがやんだら」(学研プラス)が、ニューヨーク・タイムズ紙の「最も優れた絵本ベスト10」に選ばれるなど、海外でも高い評価を得ている。
同展ではデビュー作から最新作まで、20冊以上の絵本の中から本人が選んだ原画や挿絵など約250点を紹介。酒井の「日常を感じてほしい」との思いから、制作を行う山のアトリエをイメージした会場設定となった。
「ある日」「ひみつ」「こみち」「はらっぱ」「こども」「くらやみ」の六つのテーマに分けて展示し、展覧会のために天然のスギ材で作られた高さの異なるオブジェや額、展示台に原画や挿絵などが収められている。
画用紙や段ボールを黒く下塗りし、その上に子どもたちや動物の姿を描く独特の画風ははかなく、宝物のような一瞬を捉えている。酒井自身、「子どもの頃の記憶と、今現在の生活や子どもたちの様子が合わさって一つになった時、絵本になる」と話す。
「こみち」は、初のエッセー画集「森のノート」(筑摩書房、17年)を表現。山のアトリエ周辺の映像が流れ、鳥のさえずり、風や木々が揺らぐ音が聞こえ、森に飛び込んだような感覚になる。「作品と距離を感じる展示ではなく、親密さを大切にした」と、酒井本人が海外で集めた女の子の靴や子どものおもちゃなどアンティーク品を配置した。
真っ暗な空間が広がる「くらやみ」は、初期の代表作「よるくま」(偕成社、1999年)の原画などが並ぶ。物語は、深い夜に訪ねてきた子クマが男の子を誘い一緒に母クマを探しに、未知の冒険へと踏み出すファンタジーだ。
同館の中村貴絵主任学芸員は「立体感ある会場は子どもも楽しめます。親子で手をつなぎながら、山を散策するように巡って、作家が創り出す絵本の世界を楽しんでほしい」と話した。
9月5日まで。8月2日休館。一般1100円ほか。問い合わせは、同館、電話046(845)1211。
絵本の世界を五感で楽しむ 絵本作家、酒井駒子が個展
最初に手掛けた絵本「リコちゃんのおうち」の一場面 [写真番号:746641]
スギ材を使った展示台は作品の魅力を引き立たせる=横須賀美術館 [写真番号:746620]
作品と一緒に、酒井が海外で手に入れたアンティークの小物なども並ぶ [写真番号:746640]