絹糸や布、木、ビーズなど身の回りにある素材でアート作品に取り組む現代美術家の藤田道子(41、横浜市在住)の個展「ほどく前提でむすぶ」が、茅ケ崎市美術館(同市東海岸北)で開かれている。リボンを使った新作インスタレーションでは、人とのつながり方について鑑賞者に考察を促す。
新作を含めたインスタレーション3点と、幾何学模様をテーマにした実験的な版画のシリーズや、色水で染めた布を部分的に切り抜き、パッチワークのようにつなぎ合わせたシリーズなど、これまでに取り組んできた作品群100点以上が並ぶ。
階段や展示室に広がる新作インスタレーション「Ribbon」は、色も素材もさまざまなリボンが結ばれて長くなり、壁や天井からぶら下がり、自由自在に空間を差し渡す。
現代の生活では、リボンは贈り物に添えて結ばれるのが一般的だ。
「贈り物をすることも、贈り物にリボンを結ぶことも思いやりにあふれた行為。贈られた側の人はリボンをたいてい捨てずに取っておく。それは贈った人の気持ちを思う行為で、優しくすてきな行為。リボンは人のきれいな部分を体現しており、優しさの結晶だ」と藤田は語る。
子どもの頃、母が台所の引き出しにリボンを取っており、時折、引き出しを開けて「きれいだな」と眺めた。そんな記憶から「いろんなおうちで眠っているリボンで作品を作ってみたかった」と、友人たちや茅ケ崎に住む見知らぬ人々からリボンを集めた。
展覧会が終わればリボンをほどく予定で、そこまでが作品だという。結んだり、ほどいたり、という行為は、緩やかな人間関係を想起させる。
「私自身は、いつ一人になっても生きていけるという自立心を養いつつ、緩やかに人とつながっていけば楽に生きられるのでは、と思ってはいるが、答えを出している訳ではない。作品によって、それぞれが何か感じたり、考えたりするきっかけになればいい」
昨年から取り組んでいる「Pink to Yellow」シリーズは、白い紙にこすりつけられた色鉛筆の柔らかな色合いが優しい作品。ピンクは肉体、黄色は光を表現しており「肉体が滅ぶと光へと帰り、光の中からまた生まれ変わる」という自身の死生観を表している。
「これまで自分のために作っていたが、40歳になって、どうせ発表するなら作品を通して世の中が良くなってほしいという気持ちになった。つらいニュースも多いが、光に帰るのだから死は怖くない、死を恐れて生きるのではなく、安心して生きていこうよと伝えたい」と前を向く。(下野 綾)
6月6日まで。祝日を除く月曜と5月6日休館。一般700円ほか。問い合わせは同館、電話0467(88)1177。
横浜市在住の現代美術家、藤田道子が個展 茅ケ崎市美術館
新作インスタレーション「Ribbon」の展示風景 [写真番号:590587]
リボンを手にする藤田道子=茅ケ崎市美術館 [写真番号:590588]