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マエストロの音楽手帳
初演に挑む恐怖と幸福

文化 | 神奈川新聞 | 2021年3月9日(火) 16:18

初演の譜読みに欠かす事ができないメトロノーム。僕のメトロノームには作曲家が書いたテンポを守れるように交通安全のお守りが貼ってあります

【2021年3月7日紙面掲載】
※川瀬賢太郎、神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者

 怒濤(どとう)の2月だった。怒濤すぎた。

 と、言うのも、2月は日本初演の作品と世界初演の作品を2作品かかえていたのだ。特に世界初演の作品というのは譜読みに相当な時間を要する。まだ誰も演奏した事も聴いた事もない曲を読むのはモーツァルトやベートーベンの前もって知っている作品を読むのとは訳が違うのだ。

 送られてきた楽譜を楽しみ半分、恐怖半分で開いて「見なかったことにしよう」とそっと封筒に戻す事も多々あった。それでも僕はこの世界初演というのが好きなタイプの指揮者である。デビューして14年で約15作品の世界初演を手がけてきた。

 ところで初演の作品を指揮していると興味深い事が指揮者とオーケストラの間で起こる。それは何か?

 例えばモーツァルトの作品は指揮者がいなくても演奏ができてしまう。だからオーケストラのメンバーがずっと指揮者を見ているなんて事は有り得ないのである。見られていたら逆に気持ちが悪い。が、しかし! 世界初演の作品になると全プレーヤーが指揮を血眼になって見ているのである。

 そりゃそうだ。頼りなのは指揮者からのキューなのだから。そんな時、「今指揮者としてみんなから頼られているなぁ」と謎の優越感に浸る事ができる。そしてその優越感は本番が近づくにつれて「もし振り間違えたらどうしよう」という恐怖に変わってくる。最終的に「そんなに僕を見ないで!」とさえ思えてくるのだ。

 そんな一瞬の優越感とたくさんの恐怖を乗り越えた2月。生まれたばかりの素晴らしい作品がもっともっといろいろな指揮者、オーケストラに演奏されて成長していく事を心から願っている。

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