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マエストロの音楽手帳
祖父に届ける音楽

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2021年2月10日(水) 19:58

今年はついに雪を降らせました!!

【2021年2月7日紙面掲載】
※川瀬賢太郎、神奈川フィルハーモニー管弦楽団常任指揮者

 僕は三重県のいなべ市という所の親善大使を10年ほど前から務めている。実はこのいなべ市は僕のルーツなのである。簡単に言ってしまえば僕の田舎。父親の出身地であり、いまだに祖母はこの辺に住んでいる。

 約10年前に名古屋フィルハーモニー交響楽団の指揮者(現在は正指揮者)に就任した僕は、なかなかプロのオーケストラを聴く機会がなかったいなべ市の皆さんと、名古屋から車で1時間弱なのにいなべ市で演奏する機会がなかった名古屋フィルを繫(つな)げる架け橋として親善大使に就任した。毎年いなべ市で行ってきたコンサートも先日ついに10回目を迎えた。最初の頃は小品を並べたり、大河ドラマのテーマを並べたりしていたこのシリーズも、今ではシンフォニーやコンチェルトを一曲丸々楽しんでいただける内容へとなりました。指揮者冥利(みょうり)に尽きます!

 ところで、このいなべ市でのコンサートでは僕は指揮をすること以外に何か特別な力を発揮してしまっているらしい。

 というのも過去9回のコンサートは全部雨。先日の10回目のコンサートは何と大雪。恐ろしいことに晴れの予報で雨の気配がなくても僕のコンサートが始まる少し前から雨が降り始めるのである。何てこった…もちろん名古屋フィルのメンバーからは「雨男」と呼ばれ、名古屋で雨が降ると「川瀬来てるんじゃないか?」とうわさされるほどである。

 僕の祖父は僕の指揮者デビューを見ることなく亡くなった。祖父が亡くなって約1年後に僕は指揮者としてデビューしたのである。そんな祖父はもちろんいなべの地に眠っている。雨男の川瀬はいなべ市でのコンサートの日に雨が降るのがうれしい。きっと天国の爺(じい)ちゃんの嬉(うれ)し涙なんだと思うから。雨のいなべ市に帰って来るたびに、「ただいま、爺ちゃん」と思う雨男なのでした。

 
 

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