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生きていく強さを訴える 平塚市美術館「宮川慶子展」

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2021年2月1日(月) 17:04

「武装していた」という作品「Paresthesia」=平塚市美術館

 平面、立体、詩と多岐にわたる表現方法で生命と向き合う横浜市在住の現代美術家、宮川慶子(30)。2014年から現在までの創作をたどる「宮川慶子展 生命は自分自身だけでは完結できないようになっているらしい」が、平塚市美術館(同市西八幡)で開催中だ。明るい日差しが注ぐホールやロビーに40点が並び、小さな動物たちの姿を通して、生きていく強さを訴え掛けている。

「みんな」の仲間である「うさヘッドビッグ」を手にする宮川慶子=平塚市美術館

 展覧会のサブタイトル「生命は─」は、詩人・吉野弘の詩「生命(いのち)は」の一節からとった。「正しいことを偉そうに言うのではなく、『自分もその一部ですよね』と語り掛けている感じで共感できる」と宮川。

 作品に取り掛かる前に必ず作るという詩も、吉野の詩からインスピレーションを受けた。「(前略)地面にめり込んでしまいそうなくらい苦しいときは、どろどろに溶けてしまうような気持ちになりませんか。/そんなとき、いつも傍らに潜んでいる『みんな』がいそいそと目の前に出てきます。(後略)」

 「みんな」とは、自分自身を含めた「ここにいる全ての命」を意味する。「欲求に忠実に生きていて、純粋な存在」と動物をモチーフにした「みんな」は、どこか奇妙だが、小さくてかわいらしい姿をしている。空想上の友人のようなものだという。

 「わたしとみんな」と題した陶器は、頭が二つある鹿のような姿。自問自答する際にいる、もう1人の自分を表す。「うさフィッシュ」は、上半身がウサギで下半身が魚。「その辺の池に生息している」そうだ。

 「私がクローズアップするのは弱い人たち。見えないくらい小さくても、実は強く生きているんだと作品を通して伝えたい」と陶器や粘土、ドローイングで制作に取り組む。

 だが、かつては「大きくておどろおどろしいもので、自分も武装していたと思う」と振り返る。

 2016年に東京造形大大学院の修了制作として取り組んだ「Paresthesia(パレステジア)」は、鹿の剝製を白い樹脂粘土で半ば覆い、表面にたくさんの赤い耳を付けた。タイトルは「異常感覚」を意味し、周りの音が聞こえ過ぎる耳に覆われて、やがて自分自身が消えてしまう様子を表現した。

 制作を続けるうちに、大きくなくても存在していいのだと気付き「もっと柔らかい気持ちを出して、正直になろうと思った」という。

 小学生の頃、成績のいい子を優先する先生や、いじめを見ないふりをする周りの子の行動に憤って、しばらく登校できなくなった経験がある。

 「自分がそこに存在していることもつらかった。当時は幼かったので、考えるより涙が出てきて。なんでいつも泣いているんだ、と思われていた」という。

 コロナ禍の社会では、小さな声が気付かれにくくなった。「他の人と会えないからこそ、自分の心の声に耳を傾けられるのでは。自分の周りにいる『みんな』にしっかり耳を傾けてほしい」と訴える。

 4月4日まで。月曜休館。観覧無料。問い合わせは同館、電話0463(35)2111。

※新型コロナウイルス感染拡大を受けて催しが変更になる可能性があります。

 
 
 

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