座間市出身の画家、桑久保徹(42)が巨匠たちの生涯に迫った「カレンダーシリーズ」を紹介する個展が、茅ケ崎市美術館(同市東海岸北)で開催中だ。ムンクやゴッホらの息遣いが桑久保の筆を通して、伝わってくる。
1月はピカソ、2月はムンク、3月はフェルメール…。日本でもよく知られている西洋画の巨匠たちを12カ月に当てはめ、生まれ故郷などゆかりの場所を背景に、各画家のアトリエを融合。ピカソの「ゲルニカ」やフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」といった見覚えのある名品の模写が、画中画として登場する。
何月を誰にするかは、イメージで決定。資料を読み込んで各画家の生涯をつぶさに調べ、模写をくり返すなどしてタッチを研究し、6年をかけて油彩画12点をこのほど完成させた。
例えば、ムンクの背景にはコバルトブルーの空がうねるように描かれ、ムンクのアトリエをイメージした家具やイーゼル、ムンクの代表作の数々が草原に広がる。ムンクならではの筆触や不穏が漂う世界観が再現されている。
桑久保は「アトリエは画家の一生のメタファー。僕はそのアトリエに入り、人生を追体験していった。いわばその人になる体験で、癖や性格が分かった気になった。画面全体を通して、世界が調和していく感覚を覚えた」と振り返る。
それぞれの世界を探求する作業は大変だったが、楽しかったのは最初に手掛けた4月のアンソールだという。9月のホックニーには「明るいカリフォルニアの陽光をイメージさせる作品が多いが、描いていて寂しい気持ちになった」。
11月のモディリアニは「“モテ男”のイメージがあって、いけ好かないと思っていたが、真面目で寡黙でストイックな人物」と印象が変わった。フェルメールには「超理系な思考の仕方」を読み取り、ピカソはうま過ぎて「化け物」だと評する。12人の画家と対話を続けてきたからこその思いだ。
全体を眺めて画面全体から醸し出される調和を感じたり、ぐっと寄って画中画に目を凝らしたり、と鑑賞者を飽きさせない楽しさがある。
「画面にはいろんな情報を詰め込んだ。大量のデータを送信する際、圧縮するのと同じ感じ。好きに開いて見てほしい」
油彩画と対応したモノクロのドローイング作品もカレンダーになっており、それぞれにレコード盤がセットされている。ギタリストの日高理樹(りき)とコラボレーションし、桑久保が伝えたイメージを日高が音楽で表現した。会場でも静かに流されており、融合が体感できる。
「桑久保徹」展は2月7日まで。1月11日を除く月曜と12日休館。一般600円ほか。問い合わせは同館、電話0467(88)1177。
巨匠たちの生涯に迫る 茅ケ崎美術館「桑久保徹」展
6月に当たる「ピエール・ボナールのスタジオ」を背にした桑久保徹=茅ケ崎市美術館 [写真番号:476215]
左からムンク、フェルメールをテーマにした作品が並ぶ一角=茅ケ崎市美術館 [写真番号:476216]