「東京幻想」というユニークなペンネームで活動する画家による廃虚の風景画が話題になっている。高層ビルが崩れ、鮮やかな緑色の植物が生い茂るという衝撃的で幻想的な風景だ。「壊していく過程に夢中になる」と話す東京幻想の世界観に迫った。
今年5月、これまでに描いた代表作と新作、計95点を収録した「東京幻想作品集」(芸術新聞社、2750円)を出版した。コロナ禍で緊急事態宣言が出された際は、人がいなくなった街に植物が生い茂り、野生生物などが出没する映像がオーバーラップする、とネットを中心に話題になった。
「今までさんざん妄想してきた光景が現実になり、確認している感じだった」と東京幻想。観光客が減ってベネチアの運河の水がきれいになったり、大気汚染が改善されたインドでヒマラヤ山脈が遠くから見えるようになったり、というニュースには「地球にとっては、人間がいなくなるのが一番いいのかも」と感じたという。
子どもの頃から絵は好きだったが、大学では経済を学んだ。アニメの制作会社に就職して背景などを描いていたところ、30代を前にして「自分の絵を表現したい」と思うようになった。
「20代初めにバックパッカーとして東南アジアを旅した際、カンボジアのアンコールワットで受けた衝撃が、ずっと忘れられなかった。そんなふうに、いつまでも忘れられないものを描きたいと思った」
そんな気持ちで最初に手掛けたのが、渋谷のファッションビル「109」。「東京の街がこうなったら面白いかも」と、109をジャングルのように植物で覆い、近隣のビルから滝が流れるという空想上の廃虚の街を出現させた。
2008年から東京幻想として活動を始め、描き上げた作品は会員制交流サイト(SNS)で発表してきた。作品は全てパソコン上で描くデジタル作品だ。
最初に街の写真を見ながら絵にする。1日かけて現実の風景を描き上げたら、壊していく作業に入る。光が差し込む様子や時間帯、季節の描写にも気を配る。廃虚といっても、海になった線路をイルカが泳ぐなど明るさがある。
「壊す過程が一番楽しくて夢中になる。ただし、どこを残すのかが、絵としては大事になってくる。場所が分かるように有名な建物は控えめに壊すが、描いた後は『もっと壊したかった』と思う」とほほ笑む。
小学生の頃、福岡から横浜市内へ移り住んだ。「横浜みなとみらい幻想」では横浜を象徴するランドマークタワーや観覧車が豊かな緑で覆われ、運河は田んぼに変わっている。「近未来的な建物と懐かしい田園風景といった対比が好きです」
SNSでは「早く東京がこんなふう(廃虚)になればいいのに」との反応があるという。「普段の生活で息苦しさを感じている人が多いのでは。絵の中で散歩したり、のんびりしたり、と自由に楽しんでほしい」
廃虚の風景画が話題に 画家・東京幻想作品集
「横浜みなとみらい幻想」 [写真番号:424616]
作品と同じ眺望を背にする東京幻想=横浜市中区 [写真番号:424617]
[写真番号:424618]