花鳥風月という従来のイメージを越え、多様な画題と技法を追求している近現代の日本画を紹介する展覧会「生命のリアリズム:珠玉の日本画」が、県立近代美術館葉山(葉山町一色)で開催中だ。戦中戦後をつなぐ女性画家たちの表現など、革新的な試みに挑んだ名品約80点が並ぶ。
「生命のリアリズム」とは、まだ30代だった日本画家の堀文子が、1949年に美術雑誌に寄せた言葉による。「芸術とは、何物にも従属しない個々の生命のリアリズムである」との文章には、新しい日本画の創作に打ち込む自負と戦後の新時代の息吹が漂う。
1章では「人間」と「自然」をキーワードに、同館のコレクションを中心に展示。30年ぶりの公開という牛田雞村(けいそん)の「花火」は、せり出した座敷で花火を楽しむ女性たちを描いたびょうぶ。家族と思われる女性たちの中でも、少女の着物には秋草や虫が精緻に描き込まれている。
花柳流の家元をモデルにした山川秀峰(しゅうほう)の「素踊り」も20年ぶりの公開で、コレクションの再発見といえそうだ。
尾竹竹坡の「月の潤い・太陽の熱・星の冷たさ」は3幅そろいの掛け軸。天体をモチーフにした前衛的な作品で、日本画と思えない意外さがユニークだ。
2章では戦中・戦後の女性画家たちに着目。朝倉摂の「歓び」は、戦時下の銃後の生活を描いたもの。農作業に従事する女性たちがまとうシャツのピンク色や、サツマイモのえんじ色など色鮮やかで美しい。
3章では、昨年の神奈川文化賞受賞者で葉山町在住の内田あぐりを特集。人体の柔らかな曲線が野山のように見えるなど、人間と自然が混然一体となった作品も多い。
新作「汽水・波濤圖(はとうず)」は縦75センチ、横3・6メートルの細長い画面に、自宅近くを流れる下山川が海に流れ込む様を描く。向き合うように並ぶ大作「残丘─あくがれ」同様に、流れる水を通して生命の循環を表現した。
同館の西澤晴美学芸員は「画家が所属した会派別など、画壇という切り口で日本画を紹介するのは、現代ではそぐわない。生命のリアリズムとは、日本画の可能性と言い換えられるかもしれない」と話す。
「ざらざらしたり、光ったり、といった岩石を砕いた岩絵の具ならではの質感を巧みに生かした日本画の良さがある。洋画にない魅力が伝わるのではないか」
11月15日まで前期、17日から12月20日まで後期展示。展示替えあり。祝日を除く月曜休館。一般1200円ほか。「オディロン・ルドン版画展」も同時開催中。問い合わせは、同館、電話046(875)2800。
県立近代美術館葉山で近現代の日本画紹介
人物に着目した作品が並ぶ一角=県立近代美術館葉山 [写真番号:390171]
内田あぐりの特集展示には新作も並ぶ=県立近代美術館葉山 [写真番号:390186]