新型コロナウイルスという未曽有の感染症で、会期を遅らせて開会した現代美術の国際展「ヨコハマトリエンナーレ2020」。国内外の多くの国際展やアートフェアが延期や中止になる中、開催に注目が集まった。会期の残りが約2週間となった今、感染防止のためのさまざまな対策や効果についてまとめた。
<開催への模索>
会場の入り口にはサーモグラフィーが設置され、来場者の体温がチェックされる。会場内には、あちこちに消毒液が置かれ、マスクの着用や人との間隔を空けるよう促す掲示板が掲げられている。
横浜市の担当者は「中止というより、どうやったら開催できるかを考えた」と話し、開催ありきでの感染症対策を模索したという。
日本博物館協会が出したガイドラインや市内の各施設の取り組みを参考に、消毒の徹底と密を避けることを念頭に準備を進めた。
当初は消毒液やマスクの不足が危ぶまれたが、開会が近づくにつれて市中にも出回るようになった。
サポーターとして来場者の案内など熱心に活動するボランティアは、オンラインガイドに変更した。
<予期せぬ効果>
密を避けるために採用したのが、日時指定の予約制チケットだ。室内に滞在できる人数を出すため、人と人の間を2メートル空ける前提で、会場の図面から人数を割り出し、会場を実測しての確認も行った。市担当者は「人数制限は収支にも影響してくるので、赤字にならないラインも考慮した」と明かす。
来場者へのアンケートでは「事前予約する不便さはあるが、思ったよりシステムが分かりやすい」との声が上がっているという。
「普段よりゆったり見られるとの感想もあり、美術鑑賞に適した人数になったともいえる」と担当者。
さらに、混雑を避けることができるので、親子連れが増えているという。「ベビーカーや抱っこなど、幼い子どもを連れていても大丈夫という安心感があるのではないか。いつものお客さんとは違う顔ぶれが見えてきた」(同担当者)と予期せぬ効果も上がっている。
<ロボット活用>
コロナ禍以前から予定していたのが、分身ロボット「OriHime」を使った鑑賞システムだ。
同市在住の古川結莉奈(ゆりな)さん(7)は先天性ミオパチーという生まれつきの筋肉の難病で、人工呼吸器を付けてベッドで横になって過ごしている。美術館に行ったこともなかったが、OriHimeでヨコハマトリエンナーレを楽しんだ。
会場でOriHimeを抱えて結莉奈さんに映像を送るのは、福祉医療に関心を持つ羽田ゆりのさん(18)。結莉奈さんが見ている画面には、ロボットの手を上げるなどして感情を伝えるボタンがある。「すごい」など本人の音声も伝わり「一緒に回っているようで楽しかった」と羽田さん。
結莉奈さんは2月から、感染防止のため訪問授業や訪問看護などを受けられない状態。母親の綾子さんは「娘の楽しそうな様子を見て、私もリフレッシュできた。こういう体験がもっと広まってほしい」と話した。
ヨコハマトリエンナーレ コロナ感染防止対策と効果
横浜美術館の入り口に設置されたサーモグラフィー。画面に体温が表示される [写真番号:363230]
ヨコハマトリエンナーレの会場でOriHimeを持つ羽田ゆりのさん [写真番号:363237]
自宅でOriHimeからの映像を見る古川結莉奈さん [写真番号:363238]