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能×オペラ連続公演「幻」開催 10月18日、よこすか芸術劇場

文化 | 神奈川新聞 | 2020年9月17日(木) 11:12

幻想的な能舞台の上でオペラも演じられる。どちらにも日本語の字幕が付く

 能「隅田川」とオペラ「カーリュー・リヴァー」を連続上演する公演「幻(GEN)」が10月18日、よこすか芸術劇場(横須賀市)で開催される。同劇場で長年「よこすか能」と「オペラ宅配便」をそれぞれプロデュースしている能楽師の観世喜正(かんぜよしまさ)と、オペラ歌手で演出家の弥勒忠史(みろくただし)が演出を行う。英国の作曲家ベンジャミン・ブリテンが「隅田川」に感銘を受けて作曲した「カーリュー・リヴァー」。二つの作品を続けて見ることで、時間や文化圏を越え、人類の魂に訴え掛ける物語を体感することができそうだ。

能「隅田川」
能楽師/観世喜正 能の深い感情味わって

「国内にも、まだ能を見たことがない人は多くいると思う。能面や衣装など、美術面からでもよいので興味を持ってもらえれば」(撮影・立石祐志)

 能の名作のひとつ「隅田川」は約600年前の作品。行方不明になってしまった幼い息子を捜し、武蔵国まで流浪してきた母親(狂女)が、隅田川でその死を知り、絶望にうちひしがれる物語だ。塚(墓)の前で念仏を唱えていると、母親の前に息子の霊が現れ、また去って行く場面では切なさが胸に突き刺さる。「幼い頃は息子の霊を演じていました。大先輩が演じる狂女を見て、言葉は分からなくても、強い感情が込められた作品なのだと痛感したことを覚えています」と観世喜正は力を込める。

 今回、観世は演出と同時に狂女を演じるが、ドラマチックな演目だからこその難しさもあるという。「感情的な表現になり過ぎては能の様式を逸脱する。能の美しさの中で情感を出せるよう折り合いをつけながら演じています」

 今回の公演はオペラとの連続上映のため、「音」を意識して能を鑑賞するのも面白そうだ。念仏を合唱する荘厳な謡の中で、息子の声が途切れ途切れに聞こえてくる場面では、古語が理解できない子どもや外国人にも直観的に状況が伝わる。「能ではあまり音楽性を意識することはないのですが、ブリテンもそういった肌感覚から、その場面に聖歌を当てはめたのかもしれませんね」

 国内外での能楽の普及にも積極的に取り組んでいる観世。多くの外国人が能に刺激を受け、共感する理由について聞くと「特にフランスやドイツ、オランダの方々は能に対してとても高い評価をしてくれます。そういった国々では日本の古い文化や禅の思想などに対する理解度が高く、人々の演劇鑑賞体験も多い。絵画を味わうように、言葉は分からなくても作品のテーマを洞察し、心の動きを深く感じ取っていることに驚きます」と語る。

 アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イエーツの戯曲「鷹の井戸」を翻案した新作能「鷹姫」を、同国のコーラスグループと共に演じた「ケルティック能『鷹姫』」(2017年)や、アニメ作品をモチーフに、最新の技術も駆使した「VR能『攻殻機動隊』」(20年)など、近年、能楽と他ジャンルとのコラボレーションは増えている。しかしどんな枠組みでも「基本に忠実に能を演じることは変わらない」という。「新たな角度から能を感じてもらう機会になると同時に、いつもと違う環境だからこそ、能らしい動きが際立つようにも思います」

 今回は能が演じられた後、能舞台を使ってオペラが上演される。「二つの演目が断絶しないように、能の側からちょっとした『つなぎ』を入れています。才能にあふれる弥勒さんが演出するオペラを、私もとても楽しみにしています」

オペラ「カーリュー・リヴァー」
オペラ歌手・演出家/弥勒忠史 人類共通の親心伝える

「厳しい鍛錬を積み重ねた能楽師の動きは静かだがすごみがある。能面を付けた姿にも、西洋の演劇にはない迫力を感じます」(撮影・立石祐志)

 オペラ歌手、演出家として活躍する弥勒忠史。西洋音楽の研究を深めると同時に、日本の伝統芸能に興味を持ち続けてきた。「隅田川」と「カーリュー・リヴァー」の連続上演は長年温めていた企画だったという。とある舞台で観世喜正と共演したことをきっかけに弥勒から打診し、このプロジェクトがスタートした。「観世先生はたたずまいにオーラがあり、特に海龍王などを演じていると強い威厳を感じる。そんな先生が、傷心の狂女をどう演じるのか、とても楽しみです」と声を弾ませる。

 「カーリュー・リヴァー」を作曲したブリテンは近現代のクラシック音楽を代表する作曲家の一人。1956年に来日した際に鑑賞した「隅田川」の物語をキリスト教世界に置き換えてこの作品を作った。「音色が多彩で、品のある音楽性がブリテン作品の魅力。彼は能という芸能に対して最大限のリスペクトを持ってこのオペラを作曲している。決して『隅田川』のまねではないのに、能のエッセンスを感じられるんです」

 「教会上演用オペラ」として創作されたこの作品は、修道士たちが演じる宗教劇として構成されている。能と同じく出演者は男性のみで、狂女はテノール歌手が演じる。オーケストラにつき物の指揮者も存在しない。「オルガニストとしても著名な鈴木優人さんに形式上『指揮者』を務めてもらいますが、役割は音楽監督。能舞台に指揮者がいないように、場面ごとに歌手や演奏者がペースメーカーとなって進行します」

 異文化と対峙(たいじ)した時、人はどうしても違う部分を見てしまいがちだが、同じ部分に目を向けることこそ大事ではないか、と弥勒は語る。「民族や時代は違っても、子を思う母の気持ちは同じはず。それが分かっていたからこそ、ブリテンは能の様式を尊重しつつ、ヨーロッパの人々にこの物語を届ける方法を考えられたのだと思います」

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当初の演出プランは白紙になってしまったが、それでもさらに魅力的な衣装や演出を練っており「転んでもただでは起きません」と笑う。濃厚接触が起こりにくい能の動線も参考にしつつ、優れたオペラ作品としてこの物語を現代の観客に届けたい、と決意を新たにする。狂女を演じる鈴木准や、渡し守の与那城敬など、実力派のオペラ歌手たちの歌声にも期待がかかる。

 「お客さまの前で歌うことができなくなった自粛期間、歌い手はみんな、いかに歌うことが大事だったのか痛感したと思う。人生を懸けて歌う歌手たちの生の歌声は、感動を増幅させるはず。安全対策は徹底しているので、ぜひ劇場に足を運んでもらいたいですね」

 午後2時開演、全席指定、S席1万円など。チケットは横須賀芸術劇場、電話046(823)9999。

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