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バイデン大統領就任へ
見えぬヘイトあぶり出す 米国の新しい報道とは (Copy)

社会 | 神奈川新聞 | 2021年1月20日(水) 21:00

 米国第一主義を掲げる言動が白人至上主義者らを先鋭化させ、人々の暴力や人種間の分断があらわになったトランプ政権に対し、バイデン次期政権は融和を掲げている。人種差別とヘイトクライム(憎悪犯罪)報道の在り方について、レイチェル・グリックハウス氏らの取り組みを通じて考えるとともに、法政大の明戸隆浩特任研究員(44)に日本の状況について聞いた。

米ジャーナリスト・グリックハウス氏に聞く

レイチェル・グリックハウス氏

 2017年8月、米南部バージニア州シャーロッツビルにおびただしい数のナチス旗や星条旗が掲げられていた。

 非白人移民に排外的な政策を取るトランプ大統領を正義とし「自分たちの居場所は渡さない」と叫ぶ白人至上主義者らが隊列をつくり、これに抗議する人々との間で衝突が起きた。その異様な光景を伝えた「ドキュメンティング・ヘイト」は、優れた映像作品に贈られる19年のエミー賞に選出され全米で話題を呼んだ。

 この作品の制作を後押ししたのが、「ドキュメンティング・ヘイト」という調査報道プロジェクトだ。

 新聞離れが進む米国では新聞社倒産が相次ぎ、ジャーナリズム存続が危機に瀕(ひん)している。こうした状況下、寄付金でNPOとして運営されるオンラインメディア「プロパブリカ」は新しい報道の在り方として注目を集める。全米のメディアと連携する調査報道のスタイルが、オンラインメディアとして初めて10年にピュリツァー賞も受賞している。

 そして、プロパブリカが17~19年に主導した調査報道「ドキュメンティング・ヘイト」でも全米の約180の報道機関や大学、ジャーナリストらと連携し、トランプ政権下のヘイトクライムの実態を明らかにした。

口つぐむマイノリティー

 「16年の大統領選挙後、1カ月ほどで米国のヘイトクライムが増加したという報告がありましたが、その数を十分に把握できていなかったことが、このプロジェクトの出発点でした」。ドキュメンティング・ヘイトの統括を務めたグリックハウス氏は言う。

米南部バージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義に対する抗議のプラカードをつかむ男性(左)=2017年8月12日(ロイター=共同)

 米連邦捜査局(FBI)によると、トランプ大統領が就任した17年のヘイトクライム通報件数は前年比約17%増となった。一方で、ヘイトクライム被害者の半数が警察に報告していない─という新たな事実を、プロパブリカは調査報道であぶり出した。

 女性や子どもなどマイノリティーほど報復を恐れて口をつぐむ傾向は強まるという。FBIの統計に反映されない顔の見えない被害者の数は膨大だった。

 米国ではヘイトクライムを取り締まる法律は州によって異なる。多くは人種、宗教などの偏見に基づいた暴力をヘイトクライムと認定しているが、LGBTQなど性的少数者らへの暴力はヘイトクライムと認めていない州もある。

 スーパーや学校などの日常で突如として起こる、差別行為や憎悪をあおる攻撃。ドキュメンティング・ヘイトではインターネット上に特設ページを設け、、警察が取り合わない草の根の情報を各メディアと共有し記事化してきた。

 地域メディアや、移民コミュニティー向けのエスニックメディアとの連携も欠かせないものだったという。「統計に出ない犯罪をあぶり出すには、その街のコミュニティーの中での情報提供が重要。その上で、ローカルメディアの報道は非常に重要でした。ヘイトクライムに関する報道で最も大切なことは、その歴史的、政治的背景を地域の歴史とともに掘り下げることです」

警察がカウントしない事件集めて

 プロジェクトではヘイトクライムに関する6千を超える報告や膨大な警察の記録集め、計230超の記事を発信した。警察の目からこぼれ落ちたヘイトクライムの報道がきっかけで、白人至上主義者らの逮捕につながった事案もあるという。

 グリックハウス氏は「警察がカウントしない事件を集めて報道する。可能な限りリアルタイムで報道できるように、その事件についてより深く掘り下げることを心掛けた。何が重要な問題かを社会に訴えるのはわれわれジャーナリスト次第。権力者が対処すべき問題を明らかにし、責任を負わせることがジャーナリストの責任です」と語気を強める。

 プロジェクトは19年に終わったが、最前線で米国のヘイトクライムを見つめてきたグリックハウス氏は今、コロナ禍での人種差別を強く懸念している。

 「コロナに関する誤情報やデマによって、アジア系の人々に対するヘイトクライムがまん延している。バイデン氏は取り組むべきことがたくさんある」。トランプ氏が表舞台を去っても、ジャーナリストとして決して楽観視せず、次期政権に向ける目は厳しい。(蓮見 朱加)

Rachel Glickhouse(レイチェル・グリックハウス) 米ニューヨーク市在住ジャーナリスト。各メディアをつないで調査報道などを行う「連携ジャーナリズム」の専門家。オンラインメディア「プロパブリカ」が実施したプロジェクト「ドキュメンティング・ヘイト」(2017~19年)では、統括マネージャーを務めた。

今回のインタビューは、スマートニュース社(東京)が主催する地方紙や地方テレビ局の記者を米国に派遣する「フェローシッププログラム」の一環として行われ、昨年12月30日にオンラインで実施した。


専門家の養成を 法政大 明戸氏

 日本でもヘイトクライムと認識できる事件が起きている。2016年の相模原障害者施設殺傷事件は、障害者を狙った差別的な動機がヘイトクライムだと思う。日本でも、そうした犯罪の場合は罪をさらに上乗せする法律が必要で、抑止力としても重要になる。

 川崎では在日コリアンを狙う「ヘイトスピーチ」が日常的に繰り返されてきた。差別行為を抑制しようと、同市は昨年、ヘイトスピーチに刑事罰を科す条例を施行した。本来ならば国レベルで取り組むことだが、地方が先駆けて条例を作り、反差別を掲げて実行したことは評価できる。同条例を「川崎モデル」として全国に広めることが今、最も大切だ。あらゆる地域での差別的な言動や行動を抑止することにつながる。

 ヘイト行為の取り締まりに先進的なのは欧州だ。フェイスブックやツイッターなどのネット空間ではヘイト表現があふれているが、欧州は人道的な意味合いと、米国の巨大企業の特権をけん制する理由から規制をかけている。特にドイツではナチスの蛮行に対する反省から、ヘイト行為規制を積極的に行ってきた。

 一方、米国ではヘイトクライムを取り締まる法律はあるが、ヘイトスピーチに関しては「表現の自由」との兼ね合いで法律がない。日本は今、米と欧州の中間的な立場だが、人道的にも欧州に追随できるよう、国政レベルで「人種差別禁止法」を制定することが重要だ。欧米とも、行政や警察などにはヘイト専門部署があり、職員らに研修を行っている。日本もヘイト行為にもっと目を光らせるため、専門部署を設け職員を養成する必要がある。

あけど・たかひろ 法政大特任研究員。専門は社会学、社会思想、多文化社会論。著者に「排外主義の国際比較」(共著、ミネルヴァ書房)など。

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