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〈時代の正体〉差別根絶へ、国立市で条例成立 先例として期待も

社会 | 神奈川新聞 | 2018年12月25日(火) 01:59

【時代の正体取材班=石橋 学】あらゆる差別を網羅的に禁止する条例が21日、東京都国立市で成立した。差別を明確に禁じ、被害者の救済や審議会の設置など先駆的な内容が盛り込まれ、ヘイトスピーチの被害が続く川崎市をはじめとする他自治体の先例としても期待される。条例の評価を人権や人種差別の問題に詳しい青山学院大教授の申(シン)惠丰(ヘボン)国際人権法学会前理事長と師岡康子弁護士に聞いた。


禁止、救済に意義
国際人権法学会前理事長 申 惠丰 氏


 人種差別を含む幅広い差別禁止事由について「行ってはならない」と禁止を明示した点が重要だ。ヘイトスピーチ解消法は施行から2年半が経過したが、禁止規定がない理念法の限界は明らか。「差別をしないようにしましょう」というアプローチが効く人ばかりではないからだ。

 「市は人権救済のために必要な措置を講じる」とした救済規定も評価できる。禁止している以上、違反行為には対処がなされなければならない。この条例に罰則はないが、諸外国では救済機関が加害者に謝罪や人権セミナーの受講を命じて再発防止を図る例がある。救済措置を答申する審議会にマイノリティー当事者や国際人権法の専門家が入ることで実効的な運用が期待できる。

 前文で「誰もが無意識的、間接的に人権侵害の当事者になる可能性を持つ」と説くように、差別は確信的なものばかりではない。入店拒否という権利侵害も多数者に流され、「他の客への気遣い」といった無自覚さでなされることがある。差別への認識が低い現状にあって公的機関の禁止ルール自体が教育効果を持つ。

 諸外国には差別禁止法と救済機関が当たり前にある。日本では自治体が先んじた形だが、将来的には禁止法と、それに反する差別の申し立てを受理・救済する国内人権機関を国が作るのが望ましい。ヘイトスピーチなど極めて悪質な差別に罰則を科す国も多く、その悪質さに見合う法的対応を諸外国に学ぶべきだ。


自治体の動き加速
弁護士 師岡 康子 氏


 禁止規定を単なる理念にとどまらせず、禁止条項に違反した行為について救済のための具体的措置の実施を自らに課しており、差別をなくすという市の強い姿勢が表れている。

 現状では、差別を止めさせ、救済を受けるには被害者本人が民事訴訟か刑事告訴に踏み切るしかない。時間的・金銭的負担、加害者との直接対峙(たいじ)などによる二次被害から、ほとんどが泣き寝入りを強いられる。国や社会による差別の放任への絶望に苦しめられてきたマイノリティー市民は、この条項により行政による救済に期待をつなぐことができる。

 国立市の本気の姿勢は、市長の使命や市の義務的な条項だけでなく、基本方針と推進計画の策定、実態調査の実施の条文化にも表れており、差別撤廃に向けた具体的な施策の進展が期待される。

 理念法であるヘイトスピーチ解消法および部落差別解消推進法の実効化を初めて明文でうたった本条例は、自治体の反差別条例制定の動きを加速させ、その際に確保すべき水準として機能しよう。香川県観音寺市では公園でのヘイトスピーチを禁じ、違反者に行政罰を科す条例が昨年できている。各地で進む先進的な取り組みが、差別の根絶の条例づくりに取り組む人々を勇気づけ、さらには、遅れている解消法の実効化や人種差別撤廃基本法の制定など国の新たな取り組みを促すことを期待したい。

国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例 「何人も、人種、皮膚の色、民族、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、しょうがい、疾病、職業、被差別部落出身その他経歴等を理由とした差別を行ってはならない」と示し、心身への暴力も禁じた。市の責務として「人権救済のため必要な措置を講じる」と明記し、市長の使命、市民と事業者の責務を規定。市長の諮問機関として設置する審議会が基本方針や推進計画、人権救済措置について調査・審議し、答申することも盛り込んだ。21日、市議会が全会一致で可決し、施行は来年4月1日。

 
 

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