川崎市が成立を目指す差別根絶条例について福田紀彦市長は19日、ヘイトスピーチ対策として刑事罰を設ける考えを明らかにした。理念法であるヘイトスピーチ解消法の限界が課題となる中、この問題に詳しい師岡康子弁護士は市の決断を「画期的」と高く評価し、表現の自由の過度な規制や乱用への懸念も「払拭(ふっしょく)できる」と強調する。同弁護士に意義や法律上のポイントなどを解説してもらった。
川崎市がヘイトスピーチ解消の実効性確保のため、国に先駆けて刑事罰を導入し、差別を「犯罪」とする決断をしたことは、国際人権諸条約の要請にも合致し、日本における反差別の取り組みを大きく前進させる画期的なものだ。
3年前に成立したヘイトスピーチ解消法は、在日コリアンの集住地区である川崎区桜本に向けたヘイトデモ禁止の仮処分決定を導くなど一定の効果はあった。
しかし、解消法には禁止規定も制裁規定もないため、悪質な差別主義者たちのヘイトスピーチを止められないままだ。特に4月の統一地方選挙では、日本第一党最高顧問らが川崎区の在日コリアン集住地区でヘイト街宣を繰り返し、いわば公的なヘイトスピーチが人々の日常を破壊し、共生の街を蹂躙(じゅうりん)する甚大な被害をもたらした。
このような深刻な被害を防止するには、禁止規定と刑事罰導入が不可避である。行政罰にとどまれば最高額でも5万円の過料しか科せず、実効性は不十分だ。
■条約の義務履行
ヘイトスピーチの刑事規制は、日本も締約国である人種差別撤廃条約上の義務であり、国連人種差別撤廃委員会からすでに4回勧告されている。特に2018年の審査では解消法の不十分さ、限界が指摘された。