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「“自分の音”をどんどん開拓したい」 山縣美季さんインタビュー2019年10月2日


10月6日のトップコンサートに出演する山縣美季さん。ユースピアノとピアノの両部門で最上位を受賞、「かなコン」史上初の同年2冠を達成しました。山縣さんに新聞記事用(2日掲載の「この人」)にインタビューを行いました。ピアノが上達したい人、トップコンサートを目指す人には大変参考になるお話がぎっしり詰まっていますので超ロングバージョンでお届けします。

=伸び悩んだ中学時代=
-山縣さんは小学校1年生に初出場されてから計9回、「かなコン」に参加されていますね。
山縣 地元のコンクールだし、トップコンサートに出たいから受け続けていました。小さい頃はトップコンサートを目標にしていた訳ではないですが、門下の先輩が出演したり年上の人と舞台袖などで話題になったりするといつか自分も出たいと憧れるようになりました。中学生になると同世代の人が出場したこともあって現実味を帯びてきましたが、本気で練習に取り組んだのは今回くらいです。
-小学校の時には参加した5回全てで本選に進出し3回受賞されていますが、中学生になってから昨年までの3回はいずれも本選に進めない辛い時期でしたね。
山縣 中学生の時は2回とも本選に行けず嫌になってきても一応受けてはいましたが、やっぱり他のコンクールでも成績は芳しくありませんでした。「なんで?」という気持ちもありましたが、同じ会場で通過した人の演奏を聴くと「確かにこういう部分は私にはないな」と気が付くことが多かったです。高校に入学して指導いただく先生も増え、環境が変わったことで自分も変わってきましたが、高1の時も結局予選落ちでした。
-今回はどうだったのですか
山縣 ピアノ部門は出ると決めていたのですが、ユースピアノ部門は申込書を書く段階で「どうせ予選落ちだし」と嫌になって領収印の欄に絵を書いて「出ませーん」って落書きをしました。要項は2部持っていたので、あと2回しかチャンスがないし友達も出ると聞いたのでもう1通の要項を使いました。まずは第1次予選を通ってホッとし、トップコンサートは狙ってはいたけど、その段階では特別な想いはありませんでした。
-第2次予選も通過して本選に臨み、演奏した後の結果について、自信はありましたか
山縣 本選の結果は考えていませんでした。頭の片隅にトップコンサートのことはあっても、それは本選に出た人皆が思っているだろうし、結果は置いておいてとにかく演奏のことだけに集中してというスタンスでこれまでも臨んでいて、それが予選で落ち続けてもずっと参加し続けてきた理由でした。意識的だけど結果は気にしないようにしてきました。
-ユース本選で弾き終わってやり切ったという思いはありましたか
山縣 いつもよりは達成感がありましたが、最後の部分は弾き方が悪くて満足でありませんでした。
-表彰式で他の人の名前が次々発表されて行き最後に最優秀賞が残った時に「自分が最優秀賞」だと思いましたか
山縣 他の人の演奏を聴いた時に「かなコンって、こんなにレベルが高かったっけ?」と思い自信はありませんでした。本選で一緒だった人は昔からよく知っているので皆仲良しです。だからこそ怖いなって思うことがあります。
-今回、最高の結果になった理由はおわかりですか
山縣 中学の時は身近にいるライバル達と順位や結果を比較してしまい、自分や曲としっかり向かい合っていませんでした。結果より自分自身や曲と向き合うことを大切にすることで成長でき、このような結果に繋がったと信じています。


=ピアノ部門に参加してみて=
-ピアノ部門(今回から15歳以上に変更)出場を決めた理由は何だったのですか?
山縣 第1次・本選が自由曲だったので公開実技の曲が弾けるし、ユースピアノの曲と被せることができるので負担は少ないかなと思ったからです。
-そして出場してみての感想は
山縣 皆年上だし、本当にすごい人たちの中に放り込まれた感じでした。本選で弾いたブラームスが仕上がっていなくても「もう弾くしかない」と覚悟を決めて臨みました。弾く前も弾いた後もまさか自分が1位をとるなんて思ってもいなかったです。ただ既にユースピアノ部門で県知事賞を取って、ほぼトップコンサートが決まっていたので他の人みたいに「ここで決めなきゃ」という力みが全然ありませんでした。これまでも気負いみたいなものがなく、とりあえず舞台に立って自分のピアノを弾けたらいいなくらいしか思って弾いていないので普段から本番で緊張もしません。

=トップコンサート出演にあたって=
-トップコンサートではラフマニノフの協奏曲第2番を弾きますね。この曲は過去何度もトップコンサートで演奏されています。
山縣 最初は漠然と「弾きたいなあ」というくらにしか思っていませんでした。本格的にコンチェルトを弾くのは初めてで、難しい曲なのでまさか自分でできるなんて思っていなかったし、ロシアものを余り学んでいなかったので先生に「曲をどうしますか?」と伺ったら「あまりやっていないのならラフマニノフを弾いてみたら。せっかく神奈川フィルと共演するのだから、オケとの掛け合いが一杯ある曲のほうがいいのでは」とアドバイスされました。以前、門下の先輩がこの曲を弾いた時、回りには止められたけど押し切ってやったらとても勉強になったと聞きました。結局、この曲を選んで良かったと思います。今までの自分とは違うタイプの曲なので変わらなきゃいけない、いろいろな曲を習得しなければいけない、表現の幅も広げなければいけないと課題を抱えている中で、きっと前進するために先生は勧めてくださったのだろうなと思いました。どこまでできるかは分からないけれど、とても良い曲です。構成的にもメロディも全部凄くてオケとの掛け合いも魅力的だし、弾いていても感動します。自分が感動しないと聴いている人はきっと感動しないので、自分が一番感動しないといけないと先生から言われました。
-当日来場されるお客さんにメッセージはありますか
山縣 「かなコン」はずっと受けてきて思い入れもあるし、アットホームな暖かい空気感が大好きです。トップコンサートも何回も聴いていて「かなコン」と同じ空気感だと思いますので、その暖かい空気の中で知った顔ぶれの人たちもいっぱいいて、きっと楽しみに来てくださると思うのでそれに応えられるように気持ちを込めて弾きたいです。トップコンサートという特別な場ですごく素敵な大曲を弾かせていただけることが本当に幸せだなと思って練習していますので、その幸せ感も含めていろいろな感情が渦巻いている感じや人によって感動するポイントが違うので、そのポイントでちゃんと感動していただける様に楽しんでもらいたいと思います。

=後輩の人へのアドバイス、これからの目標=
-山縣さんのようなピアニストを目指している後輩の人たちに何かアドバイスを
山縣 中学で落ち込んで再び高校で良くなったのは自分の演奏についてきちんと考えるようになったからです。それまでも考えているつもりでいても結局、自分の演奏のことより結果とだけ向き合っていました。悔しいから「次、頑張ろう」と思っても演奏がどうなるものでもありません。高校で色々と考え方を教わり視野が広がった自分ときちんと向き合うようになれました。自分が何を伝えたいかや何を表現したいかを考えないと何も成長できません。結果を気にしないのは無理かもしれませんが、私も頑張って無意識のうちに気にしないようにしています。コンクールは賞を取ることを目的に受けるのではなく、自分がどう成長したいかという考えで参加しないと駄目だった時に落ち込むだけです。良い結果が出なかった時に「気にしないで次、がんばろうね」と言われるけれど、本人として受けるからには狙ってなくても意識するもので、私も中学の時は結果が駄目だと「自分は◯◯さんより駄目なんだ」と思ってしまいました。駄目な時こそ自分自身と向き合わないと駄目なまま行ってしまいます。一方、良い結果だった時に「やったー、良かった」と思っているままだとそこで止まってしまいます。その時の演奏がどうだったから、どこが良かったから、どこが伸びたから、何が変わったからということを意識することが大事です。
-最後にこれからの目標は何ですか
山縣 自分の音を見つけることです。目標のピアニストはシャルル・リシャール=アムランとダニール・トリフォノフ。タイプは違うけれど2人とも完全にその人自身の音を持っていて訴えかけて来るものがあります。自分の音を持っていたら同じピアノをコンクールで弾いても自分の楽器になります。ポンっと弾いて自分の音が出せる人がいます。物理的に考えたら打鍵の速さや力の抜き方や指の角度など、今までも音にこだわってきたつもりでいますが、一生自分の音を追い続けていくことになるでしょう。自分の音を見つけたら、絶対それが武器になります。他の人と同じ音しか出せなかったら、表情をつけても結局人の心には響かない。「これだ!」という音をどんどん開拓していくことが目標です。(tsuka)