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ローカルブランドとしての「かなコン」2018年10月1日

 皆さん、こんにちは。雨模様の肌寒い日が続いていますね。こんな時は風邪を引きやすくなるので、服装などに気をつけてくださいね。

 毎年この時期に開催している、地方新聞社主催の音楽コンクール入賞者が集う演奏会「交流の響き」を、今年は9月22日に開催しました。2004年に「音楽のまち・かわさき」がスタートしたのと同時に「交流の響き」も産声をあげました。東日本大震災で中止になった2011年以外は毎年行われ、今年で14回目となりました。神奈川代表としてユースピアノ部門神奈川トヨタ賞の近森七海さんが地方からの出演者の最後を飾り、プロコフィエフの小品を2曲演奏され、エンディングイベントでミューザのオルガン教室成績優秀者の安達柚季さんがホールのパイプオルガンを弾き、荘厳な響きで観客を魅了しました。

 参加新聞社も多少の変遷を経て、この数年は同じ顔ぶれが参加していましたが今年、常連だった埼玉新聞社が、主催する「彩の国・埼玉ピアノコンクール」を前年に終えたので辞退しました。「彩の国・埼玉ピアノコンクール」は28回を数える実績があり、レベルも高かったと聞いています。また、連弾部門も始めたばかりで、担当から辞めたことを聞いて本当にびっくりしました。

 ただ、埼玉新聞の事例は決して他人事ではありません。交流の響きで会う地方新聞社の各担当者が口を揃えて「音楽コンクールは金銭的に運営が厳しい」と言っています。どの社も地域貢献事業として行っているのですが、状況によっては継続できない危険性があるということです。少子化、人口減少、習い事の順位でピアノが低下していることなど音楽コンクールに対する逆風が吹く中、地方はより厳しい状況に置かれています。

 さらに東日本大震災、熊本地震、広島の水害等、この数年立て続けに発生している自然災害が交流の響きに参加している地域を直撃していて、仮設住宅への避難や子どもの県外流出など深刻な事態を招いています。それでもコンクールを続けていくのは新聞社としての使命感なのかもしれません。今年の交流の響きで熊本代表の人が「熊本地震の避難所で演奏したら涙を流して喜んでくれた人たちを見て、音楽の力の凄さを感じた」とコメントしていました。

 災害で苦しんでいる人にとって飲食の確保は最優先事項でしょうが、心の癒やしも同様に生きていく上で不可欠だと思います。幸い神奈川では大きな災害が発生していませんが、7年前の東日本大震災の際にコンクールも交流の響きも中止せざるをえなかったことが、災害に見舞われた人と会うと頭をよぎります。苦しい時こそ強い気持ちを持って少しでも多くの人に音楽の力を伝えたいと、気が引き締まる思いがします。

 地方新聞社が行う音楽コンクールは地元の会場を使い、参加規定でも在住地の制限があるところがほとんどです。つまりエリア限定の「ローカルコンクール」です。一方で、皆さんがよく参加する全国の会場で長期間に実施するコンクールもあります。学生音コン、ピティナ、クラコン、日本演奏家コンクール、ヤマハジュニアピアノコンクールなど全国規模のコンクールをいくつか見学しました。以前は「目指せ、学生音コン」「ピティナに近づくぞ!」という気概で運営していましたが、それらのコンクールを地区予選から全国大会まで通して聴いた後で、全国規模のコンクールとは目指すところが違うし、違うからこそ「かなコン」の存在意義があるのだと考え方が変わりました。

 かなり昔に崎陽軒の野並直文社長の講演会を拝聴しました。崎陽軒のシウマイ弁当といえば神奈川県民なら誰でも知っている地元を代表する一品です。横浜駅で販売していた「シウマイ弁当」が大ヒットして順調に売り上げを伸ばした時に、先代の社長さんが全国展開をする「ナショナルブランド」とするか、あくまでも地元を中心に活動する「ローカルブランド」に徹するかを相当思案され、結局「ローカルブランド」にこだわる経営戦略をとったことをお話になりました。「足元をしっかり固める」、その選択が正しかったからこそ、今では偉大な「ローカルブランド」に定着したのだと思います。ここに「かなコン」のあるべき姿があるような気がするのです。

 「かなコン」は今、在住地の規制を全ての部門で撤廃しています。また県外への周知のため34回からピティナの提携コンクールになり、ネット申し込みを導入してそれ以前の参加者傾向が変わりつつあります。それでも会場は神奈川に限定しているので、県外の参加者はわざわざ神奈川に来なくては出場できません。神奈川で演奏をして神奈川の音楽文化の良いところを多くの人に知ってもらう。その一線は守っていきたいと思います。

 一方で参加者の在住規定を廃止したのは、交流の響きの参加者から「ぜひ『かなコン』、を受けてみたい」と言われたことや全国規模のコンクール決勝を聴いて「うちのコンクールに参加して欲しい」思ったことなどが理由です。ヴァイオリン部門やフルート部門では最初から全国を対象としているのでユースピアノ部門でも問題はないと判断し、結果東京からの参加者が増えました。

 今年のユースピアノ部門県知事賞を受賞した島村崇弘さんは埼玉の人ですが、「かなコン」を先生に薦められて受けたそうです。神奈川にお住まいの人には多少の親近感は持っていますが、参加者に対する想いは在住地に関係なく同じです。そして一人でも多くの県外在住者に神奈川や「かなコン」の良さを知ってもらいたいと思います。実際に県外の人からコンクールの会場や山手西洋館のサロンコンサート、福祉施設の慰問コンサートを「良かった」と言ってもらっています。

 「かなコン」は音楽コンクールのシウマイ弁当になりたい! 地元の偉大なローカルブランドにあやかって、「かなコン」は偉大な?ローカルコンクールを目指します。(Tsuka)