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旬漢〈9〉
仲村トオル「自分を走らせるもの」

神奈川新聞 | 2015年10月14日(水) 03:00

俳優の仲村トオルさん。17・18日に「KAAT 神奈川芸術劇場」で行われる舞台「グッドバイ」に主演。愛人たちと別れるために奔走する男を演じている
俳優の仲村トオルさん。17・18日に「KAAT 神奈川芸術劇場」で行われる舞台「グッドバイ」に主演。愛人たちと別れるために奔走する男を演じている

 俳優の仲村トオル(50)が17・18日、「KAAT 神奈川芸術劇場」(横浜市中区)で上演される舞台「グッドバイ」で、愛人らと“さよなら”するため奔走する男をユーモラスに演じている。ステージには小池栄子(34)、水野美紀(41)、萩原聖人(44)とドラマや映画などで主演を張る面々がずらり。仲村は「サッカーに例えるなら、どこにパスを出してもゴールを決めてくれる人ばかり。東京で始まった公演は回を追うごとに精度が増して、ほれぼれするほど。神奈川公演は各地をめぐり、最後に舞台を行う大千秋楽の場所です。客席も一緒に輝く空間を作って欲しい」と呼びかけている。

 原作は太宰治の絶筆作「グッド・バイ」。新聞連載用に書かれた小説だが、太宰が愛人と自殺したため13回分で幕を閉じた。未完作の扉を開き、脚本・演出を務めたのは、劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)。追記した言葉が浮かぬよう、「姥捨」に出てくる「死のうか一緒に」など過去に太宰が発表した作品の言葉を演者の台詞に含ませている。さらに「グッド・バイ」に出てくる怪力の美女・キヌ子(小池)が背水の陣を「フクスイ」と読む頭の弱さを〝活かそう〟と、日直を〝ひじき〟、曲(くせ)者を〝まげもの〟と読ませるなど、太宰のにおいを感じる仕掛けも巧妙だ。仲村は「自ら人生を閉じた人が、死の直前に書いたとは思えない。驚くほど明るい」と話すように、別れがテーマだが、トンチンカンなやりとりは、涙よりも笑いを誘う。KERAの脚色に、太宰が大笑いしている声が聞こえてくるようだ。


 仲村が演じる田島は人気雑誌の編集長で、ヤミの仕事で大もうけをし、幾人もの愛人を抱えている。「男として全く共感できるところはないけれど、親切を愛だと勘違いして、自分に心を向けてくれた人を『運命の人だ!』と思ってしまう田島はピュアなんだと思う。迷惑なピュアですけれど」と笑う。

 「グッド・バイ」が世に出たのは1948年。45年に敗戦した日本は、GHQ(連合国総司令部)による占領、東京裁判、財閥解体、農地改革、日本国憲法の施行など民主化が進行。しかし占領下での日本の自由は、米国が許容する範囲内のはかないものだった。

 仲村は「戦前、戦中、戦後と経て、どんな絆も永遠ではないと感じていた。だから田島は誰かと繋がっていたかった。孤独には耐えられないから。原作、舞台に描かれてはいませんが、自分の家族とトラウマになるような別れがあったのかもしれません。田島は愛情に飢えている人間だと感じます。だから、20人以上もの愛人を抱える、愛情の保険をかけるような異常事態になってしまった」。


 他人に認めて欲しい――。誰にもある承認欲。自らの歩みとも重ね合わせる仲村は「挫折を繰り返していた時期に、認めて欲しいと思う気持ちが、自分を走らせてくれたのだと思います。手を差し伸べてくれる人がいつもそばにいた訳ではなくて、歯を食いしばらなくてはいけない時もありました。舞台に関しては幕開けまでがいつもつらくて、今回なんて周りがスーパープレーヤーばかり。劣等感で一杯でしたが、幕が開けてお客さんが笑ったりしている姿を見ると、『いいものだな』と。魔法にかかってしまうんですよね。もっと続けたい。終われば、またやりたいなと」。

 大学1年生のときに父が他界。何か見つけなくては、自分を変えたいと思ったとき、映画「ビー・バップ・ハイスクール」(85年)のオーディションで、那須博之監督に見いだされ、俳優としての道を歩き始めた。同作ではW主演した清水宏次朗とトオル、ヒロシのコンビを築き、ツッパリブームの火付け役として活躍。横浜を舞台にしたドラマ「あぶない刑事」(86年~)シリーズでは新米刑事を務め一気に全国区に躍り出た。


 「ことしは俳優として30年、そして50歳の節目のとき。デビューしたばかりのころ、2、30歳上の先輩を見て、『すごいな』と思っていましたが、30年後の自分のことなんて想像することもなかった。30年経って思うことは、思っていたよりも、軽いなということ。もちろん平たんな道のりではなかったですが、やるべきことをちゃんとやり続けることでしか道を切り開く手だてはなくて、それを黙々とこなしてきたから、いま30年という時間を持ち上げるぐらいの筋力を身につけることができた。僕は、大リーグのイチロー選手が大好きなんですけど、彼の言葉で『1つ1つのことを質高くやることでしか、高みにはいけない』というものがあって、やるべきことをちゃんとやったからこそ、次に繋がるって、本当にそうだなぁと思うんです。挫折や壁は数え切れないくらいありましたが、悲観したり、傷ついて苦しいときも、『まだ死んでない』と思って、最後はいつも楽観の方に心を向けるようにしています。僕はこれを『前向きな現実逃避』と名付けているんですけどね」と苦笑いした。

 「舞台『グッド・バイ』は『あぶない刑事』などの撮影で長く通っていた時期もあった横浜で最後を迎えます。生まれたのは東京ですが幼稚園に入る前に引っ越し、小学校3年生くらいまでは川崎市民でした。縁がある神奈川でどんな最後を迎えることができるのか。舞台は演者だけではなく、会場にいる全員で作り上げる物なので、いまからとても楽しみです」。

 なかむら・とおる。1965年9月5日、東京都大田区生まれ。青年マンガ誌「ヤングマガジン」(講談社)に掲載されていたツッパリマンガ「ビー・バップ・ハイスクール」の同名映画で1985年にデビュー。初主演作ながら、日本アカデミー賞など数々の新人賞を受賞した。横浜を舞台に86年から放送を開始した舘ひろし、柴田恭兵主演のドラマ「あぶない刑事シリーズ」では、新米刑事・町田透を熱演。同ドラマのファンの声に応え、2016年1月30日(土)には、10年ぶりに新作映画「さらば あぶない刑事」が公開される。

KERA・MAP ♯006「グッドバイ」
日時:10月17日(土) 午後5時半開場、午後6時開演
   10月18日(日) 午後12時半開場、午後1時開演
会場:KAAT 神奈川芸術劇場
原案・原作:太宰治
出演:仲村トオル、小池栄子、水野美紀、夏帆、萩原聖人ら
問い合わせ:tvkチケットカウンター、045-663-9999
チケット代金全席指定:8000円


俳優の仲村トオルさん。17・18日に「KAAT 神奈川芸術劇場」で行われる舞台「グッドバイ」に主演。愛人たちと別れるために奔走する男を演じている
俳優の仲村トオルさん。17・18日に「KAAT 神奈川芸術劇場」で行われる舞台「グッドバイ」に主演。愛人たちと別れるために奔走する男を演じている



舞台「グッドバイ」=引地信彦撮影
舞台「グッドバイ」=引地信彦撮影

舞台「グッドバイ」
舞台「グッドバイ」
 
 

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